II 政治システムの進化

  • アルカイックな社会には「コンフリクトを抑止するための装置」は存在しても、「集合的に拘束力を有する決定」は存在しない。
  • 親族構造に依存しない中央集権制の登場は政治権力登場の発端ではあるが、まだ政治システムではない。
  • 問題は、その状況からさらに「政治的な権力」が必要とされたのはどうしてか、ということ。
  • 進化の第一局面は「王朝」の発明。これは18世紀まで続く発明だった。

[510-511] 政治的権力それ自体が問われまた危機に瀕するようになってはじめて、政治に固有の進化が始まる。こうなってようやく、権力の貫徹の成功と失敗が選別されうるようになる。そうした選別は、とりわけ、権力の貫徹能力に対する評判という拡大レンズによって、すなわち、個々の出来事に対して、肯定的な方向で並外れた印象や、あるいは逆に否定的な方向で並外れた印象を与えることのできる〔評判〕という拡大レンズによっておこなわれる。ここにきてはじめて、権力がシンボリックに一般化されたメディアとして分出するとか、権力手段が行使されるのではないかとの予期に基づくだけですでにその目的が広範に達成されるといった言い方ができるようになる。特別な政治的重要人物が際立たせられ(観察され)ることによってはじめて、それに対する挑戦やそれと関連した権力闘争が、特別な構造的な射程を有するようになり、それが、〔権力の貫徹能力を〕実証したり破壊したりする過程で、特別な政治的諸制度──公職、王朝、宗教との調停、など──の進化をもたらすのである。とりわけ《王朝》の発明は、法で定められた財産引き継ぎを伴いつつ、家族というまとまりに依拠したかたちで、公職の継承という問題と平和的に解決する策として、政治的進化の重要な成果であった。この成果がその説得性を失うのは、ようやく18世紀になってからであり、さらに別の分化が起こってからのことである。

  • この局面は「支配 Herrshcaft」という概念で指示される。この概念は次のことを示唆している:
    • 全体社会の成層化との調和
    • あらゆる生活領域にわたって影響力をもつ重要人物の存在との調和
    • 土地所有の秩序との調和
  • 「支配」概念は、統治権 imperium - 所有権 dominium - 権力 potestas という三つの言葉の連関を前提としている。
    • Herr(領主)は Land(領邦)という反対概念を必要とする。 
  • これはのちに 国家 Staat と呼ばれるものとは異質なものなので、国家について考えるときに「支配」概念に依拠するのはよろしくない。国家概念を古代ローマの秩序にまでさかのぼって関連付けるのはやめることによって、そうした秩序のほうも正当に評価できる。