涜書:CERI編著『脳を育む』

OECDの報告書。きわめて内容の薄い本でありました。もの売るってレベルじゃない。

「sensitive periods」は、この本では「感受期」と訳されている。こちらの訳語なら聞いたことあるよ。

脳を育む 学習と教育の科学

脳を育む 学習と教育の科学

第一部 前提
  • 第一章 教育状況
  • 第二章 認知神経科学はいかにして教育の制作と実践を啓発することができるか
第二部 認知神経科学と教育の出会い
  • 第三章 三つの国際フォーラム
  • 第四章 神経か学的アプローチからみた学習
第三部 結論
  • 第五章 研究展望
付録
  • 用語集
  • 三つのフォーラムの議題

第5章いらない。



4.6. 神経神話

4.6.1 科学と憶測の分離

[...] 過去においてほとんどの科学者は、新生児の脳には、成熟した脳にある神経細胞すべてがあると主張した。しかしながら、新しい技術の出現で、この事実の正統性が問われている。人間の基本的な生存本能を制御するような仕組みは、生まれたときから備わっているが、新生児の精神回路のほとんどは、経験によって形成される者である。そして、こうした接続が「いつ」「どのようにして」形成されるかは、現在でも議論のテーマである。こうした精神回路が三歳になるまでには完成していると唱える科学者もいれば、青年期になるまで形成され続けると信じる科学者もいる。ごく最近ではあるが、シナプス接続は一生を通じて形成されるという考え方で合意がなされているようである。[...]

4.6.3.  シナプス発達、「豊かな」環境、「臨界期」

神経細胞、または脳細胞は人間の脳の基盤である。これらの細胞はシナプするまたはシナプス接合部を介して連絡を取り合っていて、そこで、神経興奮(nerve impulses)が細胞から細胞へと伝達され、スキルの発達、学習能力、知能の発達が支えられている。出生児のシナプスの数は成人レベルと比べると少ない。しかし、生後二ヶ月後そして生後10ヶ月には最大数となり、脳組織内のシナプス密度は急激に増加し成人レベルを超える。その後、シナプス密度は徐々に減少し、10歳くらいで成人の密度に安定する。[...]
 ウィリアム・グリーノー博士(Dr. William Greenough)がニューヨークフォーラムで発表した齧歯動物(...)を使った室内実験では、シナプス密度は複雑な環境を加えることによって増加することが証明された。複雑な環境とは、この実験においては、ひとつのかごのなかに他のラットも一緒にいて、そのかごのなかには探索する様々な物体が存在する状態のことをいう。こうしたラットを後に迷路学習テスト(...)で検証すると、複雑な環境におかれたラットのほうが、単純または隔離された環境に住んでいた対照群のラットよりも迷路学習課題をより速くそしてより良く実行したことが証明された。この研究では、「豊かな」環境におかれたラットは、シナプス密度を増加させることによって学習課題をよりよく実行することができた、という結論が出された。
 これが神経神話の始まりである。シナプス形成とシナプスの刈り込みがラットの学習にとって重要な影響がある可能性が高いとしても、同じことが人間にいえるかどうかは証明されていない。専門家でない人々は、[...] 教育的介入が最も効果的であるためには、シナプス形成期に会わせて行われるべきであると主張した。神経神話の論理は、シナプスがより多ければ、神経活動と神経連絡が行われる可能性がより高く、よってより良い学習が可能になるというものである。また関連した思い込みは、「豊かな」環境を用いた早期教育的介入によって、シナプスの刈り込みを防ぎ(...)、結果としてより優れた知能と学習能力につながるというものである。この思い込みは、関連する研究の事実を引用し、その研究の最初の文献で示された証拠を超える意味合いを与えてしまうという、さらなる問題につながった。
[...]
 予測されるように、シナプス形成・シナプスの刈り込みについての間違った考え方から来る不適切な推論と一般化に基づく主張には、弱点がある。

  • 第一の弱点として、シナプス密度と学習を結びつける直接的、同時的証拠をえることはいまだに困難である。最近まで、そうしたデータは人間や動物の検死によってのみ集められていた。
  • 第二の弱点として、人間の幼いときのシナプス密度と成長してからのシナプス密度との間の予測的関連性についての神経科学的証拠があまりないことが挙げられる。
  • 第三の弱点は、動物または人間の成人のシナプス密度をより優れた学習能力に結びつける神経科学的証拠があまりない。[p.91-92]
68 子どものための「豊かな」環境(例:モーツァルトを聴くこと、色のついた動くものを見ること)の必要性について、ラットのデータから論じることは不当である。特に、刺激が豊富な、または隔離された環境が人間の脳の発達に与える影響についての神経科学的研究が同時並行して行われていないということを考慮すると、こうした論議は不当である。[...]

「精神回路」?


監修者のひとは本いっぱい出してるね。

恋う・癒す・究める 脳科学と芸術

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