本日の裁断/涜書:松本『ピルはなぜ歓迎されないのか』

勉強になりました。

ピルはなぜ歓迎されないのか

ピルはなぜ歓迎されないのか

  1. ピルはなぜ認められてこなかったのか
  2. ピルをめぐる歴史
  3. 産婦人科医と家族計画関係者──ピルをめぐる利益構造
  4. 「家族計画」運動をめぐるイデオロギーとピル
  5. ピルをめぐるジェンダー・ポリティクス
    • 1 ピルは女を解放する──日本のフェミニズムがピルを否定した理由
      中ピ連とその運動に対する批判
      ・ピルのもつ二律背反性──女の主体性と男の否認責任の免罪
      中ピ連とリブ──優生保護法とピルをめぐる思想の違い
      ・政府の「トレード戦略」とリブの抵抗
      中ピ連の限界
      ・否認責任の「共有」と「曖昧化」──避妊パターンの構造化
    • 2 ピルは〈自然〉に反するか
      ・女性身体の〈自然〉に対するピルの攪乱性
      ・ピルの男性化作用
      環境ホルモン言説のなかで現出した「境界攪乱性」
  • 終章 アンチ・ピルの背景


5章がハイライト。1〜4章まではその準備で、「ピルが長い間ずっと認可されなかったのは(産婦人科医や家族計画関係者などの)経済的利害に反していたから」ではない ことを示すために当てられている。

「家族計画」についてはかなりの紙幅が割かれているのだが、論の運びにちょっと腑に落ちないところあり(「どこが」かってのは、もう何度か読んでみないとわからない)。

こちらの教養不足ということもあるのだろうが、リブ〜中ピ連の論争の検討に当てられている5章は、リブ主流派(?)の主張が「生む/生まないは女が決める」ってところからズレていくあたりの記述がけっこうスリリングだった。

フェミニズム史をよく知らないのでこれは推量だけど、ひょっとするとこれ、けっこうコントロバーシャルな議論なのかもしれないね。

ともかくもこの論争が、「技術論*」としても再考されるべきものであることがわかって、蒙が啓かれまくり。

* ピルは、ある地方(〜北米&西欧)では「女が飲む薬」として──「女性自身が 避妊を ほぼ完全・ほぼ安全 にコントロール可能にする薬」として、したがって「女性の決定的な解放」をもたらす薬として──理解されたが、日本では それが「女が飲まされる薬」としても理解された。
技術がなんであ(りう)るかは、それがどのように用いられ(うる)かに依存する。だから、技術論には、技術の理解可能性と運用可能性についての検討が含まれていなければならない。──って。まぁ当たり前の話ですが。

あと中ピ連ネタはいま読むとけっこう泣ける。



[1998年3月に米国で認可されたバイアグラは、米国では発売から4ヶ月間に処方された360万人のうち123人の死亡が報告されていた。にもかかわらず、同年7月には日本でも申請が出され、12月にはスピード認可された。]

 1960年代の第一期審議から含めれば40年以上、そして低用量の審議も8年目にさしかかっているピルと比べると、その違いは歴然で、あまりに不可解であった。ピルと違ってバイアグラは、海外はおろか国内でもすでに死亡例が出ていたのであり、安全性については、ピル以上に慎重な審議がされるべきところだったはずである。また有効性の面からみてもピルの避妊率は 95〜99% であるのに対し、バイアグラの勃起促進率は 70〜80% である。しかし、この違いは、厚生省医薬品安全局審査管理課によって、次のように説明された。[p.51-52]

 バイアグラなど勃起不全の治療薬を待ち望む患者さんは大変多い。勃起不全は生命にかかわるものではないが、患者さんにとっては深刻なことであり、またほかに有効な治療薬がないということもあり、医療上とくに承認申請がいそがれると考えられた。低用量ピルは健康人が服用する薬剤だ。さらに副作用として乳がんや子宮頸がんのリスクが心配されるほか、環境ホルモンとの関係を指摘する専門家もいて、慎重に審議されている。また低用量ピルが避妊薬として使われる事でエイズなど性感染症がまん延するおそれもあるため、それについても慎重にしらべなくてはならず、審議に時間がかかっている。(「気になる疑問・質問・医薬品の承認」『週刊ダイヤモンド』1999.3.35)

不覚にもワロタ。



こちらでリブ関係の本がたくさん紹介されておりました:

リブ私史ノート―女たちの時代から

リブ私史ノート―女たちの時代から

手に入るのかな?



古書で500円で売ってた。ので購入した。