高橋徹『意味の歴史社会学』

補論4 オートポイエーシス概念の実質的導入およびゼマンティクとしての「福祉」
  1. 二つの論点
  2. ルーマンの問題意識
  3. 自己言及的システムとしての政治システム
  4. ゼマンティクとしての「福祉」
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「二つの論点」=オートポイエーシス論の導入+「福祉」ゼマンティクの分析

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  • 〈社会国家→福祉国家〉: 「補償」の変化〈扶助→要求・主張〉

■機能分化と「福祉国家における政治理論」が直面している状況:

  • 政治理論は機能分化以前の思考財を動員している。(〜「全体社会における政治の優位」という自己表象を持っている)
  • 「環境」問題──人間の動機付けの問題も含む──の深刻化が、各機能システムに対応を強いている。
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■自己言及システムが孕む未規定性 に対する方向付けの二種:

  • 歴史化: 
  • 外部化: 「世論 öffentliche Meinung」「人物 Personen」「法 Recht」 id:contractio:20070918#1190067061
    • 政治システムにおけるメディア循環
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  • 「扶助・恩恵」から「要求・主張」へ → 「包摂 Inklusion の拡大」(←「福祉国家」のメルクマール)
    • 政治システムへの包摂:
      • 政治過程へのアクセスが人々に許されること
      • 政治過程に人々の生活が依拠すること

政治という機能領域における包摂原則の実現は、その帰結として福祉国家へと行き着く。福祉国家、これは実現された政治的包摂である。[PTW: 27]

人々の政治システムへの包摂が進むことは、それだけ人々の生活問題が政治的テーマとなる機会が増え、人々の生活もまたそれらのテーマを処理してくれる政治システムに依拠するようになることを意味する。[p.202]

個体が反省において、なんらの支え・確かさ・それどころか場合によっては自らのアイデンティティさえ見出し得ないとき、その解決はおそらく、個体が環境に対する差異を受け入れ、環境に対する 要求/主張 Anspruch をゾンデとして用いることで、自分自身で経験を積み重ねることにある。[GS3 : 237]


個人の自己確証に関わるゼマンティクの歴史を遡ると、この「要求/主張」に先立って、まず 快/不快 図式が視野に入ってくる。ルーマンは次のように述べている。

おそらく一般的には、快/不快 の図式が心理システム構築の基本的規則であるとみなしうるのであり、個体というものについて探求した 18世紀の人間学が まさにこの図式を用いたことは偶然ではない。[GS3 : 237]

 「要求/主張」ゼマンティクのユニークな点は、快/不快のように自己にとって明証的な感覚に立脚するものではなく、環境との関係を基軸としている点である。… このように環境への「要求/主張」が自己確証の手段として認知されることに先行して、「インタレスト」の問題が大いに議論されたようである。ルーマンによれば、

17世紀は、インタレストの概念において、要求/主張と 自己関係性の形象を一つに融合させていた ──しかしながらそれは、当初は人間の自己実現のある部分領域にのみ限られており、個体性要求が強制されることもなかったのである。[GS3 :238]