千葉隆之(1996)「信頼の社会学的解明に向けて」

  • 1. はじめに
  • 2. 「信頼」概念の多様性と類型
  • 3. 「信頼」関係の基本的構図
    • (1) 信頼する当事者
    • (2) 信頼される対象
    • (3) 状況
  • 4. 信頼の特質と効果
  • 5. 信頼と社会秩序

2. 「信頼」概念の多様性と類型

「信頼」は従来、社会学ではしばしば言及されても決して正面から取り上げられることのない概念であった。例えば、日本はもちろん欧米の社会学辞典にも「trust」という項目は記載されていない。ただ、風向きは変わりつつあり、最近の辞典(Marshall ed., 1994)では取り上げられ始めている。わが国では、「信頼」を直接に扱った論考は皆無に等しいが、社会学社会心理学のいくつかの理論潮流の中ですでに、この現象への部分的接近が、多様な視点からなされている。

  • ドイチェにおいては:「信頼とは、前者では、囚人のジレンマやそれに類する利得配置で示されるような利己的利害を追求する複数の行為者を想定した状況下で、相手が協力的行動に出るであろうという信念である(Deutsch, 1958)」
  • ガーフィンケルにおいては:「日常生活の基本的な慣習的行動や基礎的ルールを相手が守るであろうという漠然とした期待のもとに、自らもそうした行動を行ない、そうした基礎的ルールに従った出来事を産出すること(Garfin kel, 1963: 193-4)である」

秩序問題との関わりでいうと、前者が協力的秩序形成に寄与する行為者の信念を問題にしているのに対して、後者は当事者視点からみた日常的社会秩序一般の成立基盤にあるものに関心を向けているのである。