バーバラ・エーレンライク(2009→2010)『ポジティブ病の国、アメリカ』

特集:自己啓発 https://contractio.hateblo.jp/entry/20200804/p0

原題サブタイトルは「ポジティブシンキングは いかにアメリカを弱体化させてきたか」。この著者には他にも複数邦訳があり、『魔女・産婆・看護婦―女性医療家の歴史 (りぶらりあ選書)ISBN:4588352318 は読んだことがある。昨年には「こんまりは嫌い」ツイートで炎上してましたね。


  • 第1章 微笑みで死を遠ざける?―がんの前向きなとらえ方
  • 第2章 望めば何でも引き寄せられる?
  • 第3章 歴史から見る、アメリカ人が楽観的なわけ
  • 第4章 企業のためのモチベーション事業
  • 第5章 神はあなたを金持ちにしたがる
  • 第6章 ポジティブ心理学―幸せの科学
  • 第7章 ポジティブ・シンキングは経済を破壊した
  • 第8章 ポジティブ・シンキングを乗り越えて

第1章 微笑みで死を遠ざける?―がんの前向きなとらえ方

  • 著者、細胞生物学で博士号を取ってた
  • 35 「犠牲者という言葉すら禁句になっているので、乳がんをわずらう女性を指す名詞は存在しない。部分的に乳がんに撲滅運動の手本になったエイズ撲滅運動と同じく、「患者」「被害者」という言葉は、自己を憐れみ、抵抗をしないイメージがあるので、不適切だと判断されているのだ。そのかわり、動詞はある。治療の真っ只中にある人のことは「闘っている」と表現する。」

第2章 望めば何でも引き寄せられる?

  • 73 「現実の事件や、人間同士の織りなす出来事からこうして目を逸らすのは、ポジティブ・シンキングの核心部分に、どうにもならない無力さが存在するということだ。どうしてニュースを追わないのだろう? それは、米国講演家協会の総会である人から聞いたところでは、「自分ではどうすることもできない」からだ。」
  • 73 「心のパワーがほんとうに「無限」であるなば、自分の人生からネガティブな人を追い払う必要すらないではないか。たとえば、相手の行動をポジティブに捉えることもできる。彼は私のためを思って批判するのだ、とか、彼女は私への好意に気づいてもらえないから不機嫌なのだとか。ネガティブな人やニュースを排除するなどして環境を変えるべきだとアドバイスするのは、われわれの願望にまったく影響を受けない「現実世界」が存在すると認識しているからこそである。」
  • ロンダ・バーン(2006→2007)『ザ・シークレット角川書店
  • 76 「スポーツ選手ではなくとも「コーチング」を必要とするという概念は、1980年代に生まれた。」
  • コーチング」なるジャンルを確立した古典: マイク・ハーナッキー(1982→1991)『成功の扉―すべての望みはかなえられる (サンマーク文庫)』サンマーク文庫
  • 78 「コーチングに携わる人びとは神秘的なパワーに引きつけられる。それはどうしてだろう? そう、それ以外に伝授できることがないからだ。」

第3章 歴史から見る、アメリカ人が楽観的なわけ

p. 111

二十世紀、ポジテイプ・シンキングの不断の効果をもっとも多くのアメリカ人──また、世界中の人──に紹介した本は、いうまでもなくノーマン・ヴィンセント・ピールの1952年の著書、『積極的考え方のカ──ポジテイプ思考が人生を変える』である。ピールはプロテスタント系の主流派教会の牧師だったが、聖職者になってまもなくニューソートに引きつけられた。のちの本人の記述によればれはニューソートに賛同する アーネスト・ホームズ という人物からの影響だった。

「若いころの私を知る人ならば、アーネスト・ホームズのおかげで私がどのように変わったか、よく理解できるだろう。彼によって、私はポジテイプ思考の人間になった」。

ポジティプ・シンキングと、ピールの信仰する、カルヴァン派から分かれたオランダ改革派教会の教義とのあいだに矛盾を見つけても、彼はまったく動揺しなかった。神学を学ぶ学生時代にあまり優秀ではなかった彼は、卒業するころには神学論争に強い嫌悪感をもつようになっていた。そして、金銭、結婚、仕事に関する一般的な問題の解決に役立てるため、キリスト教を「実用的」なものにしようと決意した。彼は、十九世紀のニューソートの提唱者たちと同じく、ある意味自分を治療師であると考えていた。ただ、二十世紀に治療するべき病気は、神経衰弱症ではなく「劣等感」だった。ピール自身もこれと闘っていた