八章「進化」I 基礎概念の確認と進化論-システム論のコンタクトポイントの概観

(n)は段落番号。

  • (01) 特にポパーとクーン以来、「科学的知識の基礎づけ」から「科学的知識の成長や構造変動」への関心の移行がみられるよ。でも、認識論にも歴史的意味論にも対応できるような理論はまだ登場していないよ。
  • (02) 19世紀末の進化論的認識論の開始は、合理性や合意の危機を受けたものだよ。
  • システム論と進化論の連携には いくつか難点があるよ。
    • (03) 【1】生物学的特殊性を捨象する一般進化論が(一般システム論と同様に)必要だが存在していない。
    • (04-06) 【2】「適応」の再解釈が必要。
    • (07-08)【3】「別種の初期状態からの漸進的進化」と「オートポイエーシス」は、折り合いがつきにくい。
  • 進化論とシステム論の連携の見取り図:
    • (09) 進化論は〈変異/選択/安定化〉という区別を用いて構造変動を説明するもの。
    • (10) 「進化論+システム論」によって説明されるべきことは「適応」ではない。
      • (11) 少なくとも「知識の進化」の場合、「適応の強制が引き起こされて、従来の知識が消滅するとか新たに適応した知識が選択されるといった形で知識が対応する」などということは生じない。
      • (12) 「知識の進化」論は、知識が長期間変更されずに保持されることも、比較的短期間に急激で深甚な変更を被ることも、ともに説明できなければならない。
    • (13) 「適応」をフィードバック(=逸脱強化)だと捉えてみよう。環境に適応する能力ではなく、環境から自己を切り離す能力について考えること。
  • (14) 進化論の概念の、システム論的再解釈:
    • 〈変異/選択〉は構造変動(のみ)を説明する。
    • 準拠問題の設定「自己の作動を自己の構造によって統御しているシステムが、その構造をほかならぬその作動によって、どのようにして──しかも、所与の構造に縛られているために、それを計画的に新たな構造に置き換えられない場合でさえ──変えられるのか」
    • (15) 「選択」は順応と拒絶の双方の可能性を惹起する。ここで「安定化」概念が必要になる。
    • (16) 変異における「偶然」の意味: 研究プログラムの呈示

[知識の進化論において]主張されるのは、ある変異が 同時に選択の成功をもたらすのは偶然かもしれない、ということである。

従来の進化論は、すくなくとも認識論的な問いに適用される場合には、変異の発生そのものを偶然として説明してきた20。この説から、われわれはこんにちますます遠ざかっている。じっさい、生体の領域でも社会の領域でも、変異は──決定されたとまではいわないまでも──細かく規定された現象であり、とても「偶然」として記述することはできない。

「偶然」の本質は、──変異と選択があらかじめ調整されているのではなく──変異が 選択に いわば自由裁量の予知を与えている、という点だけにある。

  • 変異は既存の構造と並んで他の構造の候補を提示し、
  • 選択の仕事はどの構造を選ぶかの決定を下すことである。

そして、構造的に決定されたシステムでは そのような相互依存の遮断はいかにして可能かという問いのなかにこそ、概念化を必要とする困難がある。この問題が研究プログラムとして受け入れられるなら、われわれは進化論について語れる。

だが、彫琢された進化論は 当然のことながら、現実に起こる進化がいかにして可能か・何に依存しているかを説明できることを前提としている。およそ知識の進化というものについて語りたければ、知識(ことによると科学的知識だけかもしれないが)の場合に、変異と選択の機能がいかにして実現されているかということについて論述できなければならない。 [p.604-605]
    • (17) 〈変異/選択/安定化〉は段階を成すのではない。それは恒常的フィードバックの関係にある。
  • (18) 進化は変異/選択/安定化という差異にもとづいて生じる。→この可能性条件は何か。
    • システム論の三水準: 〈個々の作動/作動によって(再)生産される構造/環境との差異のなかで進化するシステム〉 ──これらはそれぞれ、進化に対して様々な出発点を提供する。
      • (19) 変異のメカニズムは、作動に関わる。変異の固有な安定性は、それが理解可能であり・記録可能である点にしかない。変異は出来事である。
      • (20) 選択は、システム構造(=確定した意味を再び適用できるという予期)にかかわる。
      • (21) 安定化は、システムのオートポイエーシスの継続にかかわる。
  • (22) 要約: 「構造的に決定されたシステムは、自己の構造を自己の作動によってのみ変異させうるし、構造化された茶道によって当の作動の回帰的ネットワークを作りだす。このネットワークは、環境に対して自己を境界づける」