『クレーヴの奥方』

読了。
出家オチかよ!

  • ラ=ファイエット夫人、『クレーヴの奥方』新潮文庫 ラ 4-1、青柳瑞穂訳、新潮社、ISBN: 4102077014、1956/08
    • LA FAYETTE (1634−1693), La Princesse de Cleves (1678)

えとね。いろんな意味でおもしろかったんだけどさ。
ちょっとこまってしまったことには、「近代的心理小説の嚆矢」とされるらしいこの小説ですが、どのへんが「心理」の描写になってるのかがわからなかったんだな(,,゜Д゜).....。
以下、ルーマン『パッシオン』読書会「第7章用資料」、ということで。

前半戦。
クレーヴ公、若干の苦難を乗り越え 貞淑なる絶世の美少女シャルトル嬢とケコーンしたとこまではよかったんですが...( ´_ゝ`)。
いきなり切ないことになっております(,,゜Д゜):

 クレーヴ公は幸福だったが、必ずしも完全に満足はしなかった。彼としては、シャルトル嬢の気持が、尊敬感謝のそれを一歩も出ていないことを知るのが何んとしても寂しかったのである。そうかといって、もっと打ちとけた気持をかくしているのならうれしいのだが、そうでもないらしかった。今の二人の間柄では、よし彼女がそんな気持をあらわに見せてくれたにしても、彼女の極度につつましい性格がそこなわれるとは思われなかった。彼は彼女に不平を言わない日とてなかった。
 「そんなことがあり得るでしょうか?」 彼は言うのだった。「あなたと結婚するというのに、私が幸福になることが出来ないなんて。しかし、私が幸福でないのは事実だから仕方ありません。あなたが私に感ずるのは、ただ一種の好意だけなんですが、これじゃ私は満足できませんよ。あなたには焦躁もなければ、不安もなければ、煩悶もないんです。よしあなたが私の情熱に感動したとしても、例えば、あなたの財産が目当てで、あなたのお人柄の魅力にひかれたのではない、そんな男の執念に感動する以上のものではないんです。」「不平をおっしゃるのはご無理というものですわ。」
 彼女はそれに答えた。「あたしが今している以上に、どうせよとおっしゃるのでしょうかしら。これ以上のことをするのは、世間体がゆるさないように思われます。」
 「そう言われると仕方ありません。」彼は口返答した。[新潮文庫版 p.31]

うくくくく...。確かに仕方ありません。
クレーヴさんと来たらこのあと、この奥さんから「道ならぬ恋」を打ち明けられ──自分が彼女に「与え」られなかった焦躁やら不安やら煩悶を、他の誰か(ヌムール公)に「与え」られ・それに陥っている彼女をみて──、最後は苦悶して死んじゃいます。哀れ。



クライマックス。
相思相愛であることを確認しあった直後、その相手ヌムールさんに対して、クレーヴ未亡人、数頁にわったって正論ぶちかましまくります。

「[略]
 あたくし、これほどまでに慕っていただくのなら、自分の気持ちをかくさずに、ありのままお見せするのが、せめてもの償いだと思います。こんなに自分の気持ちを平気でお見せすることの出来るのは、きっとこれが一生の最初で最後になりましょう。それでいて、こんなこと告白するのはとても恥しいのですが、あたくし、もうこれからは今のようにあなたから愛されなくなることは確実なんですから、それを考えると、何か非常に恐ろしい不幸のように思われてなりませんし、また、あたくしに是が非でも義務を通さなければならない理由がないとしたら、この不幸に甘んずる決心が出来なくなるのではないかという気がします。あなたは自由なお身だし、あたくしもそうですから、たとえあたくしたちが永遠に契りを交しても、あなたにしろ、あたくしにしろ、世間から非難される理由はないと思います。それにしても、男の方に、そういう永遠の契りといったような恋が出来るものでしょうか? 女が自分の場合だけ都合よく奇蹟などあてにしていいものでしょうか? そして、自分の幸福そのものである恋も終る時の来るのが分りきっていながら、そんな中に飛びこんでもいいものでしょうか? 結婚生活のなかでも恋愛をつづけることが出来るためには、[死んでしまった自分の]夫など世界でただ一人の相手ではなかったかと思われます。しかし、運命のいたずらで、このせっかくの幸運もあたくしは利用することが出来なかったのです。それに、まるで恋人みたいな夫の愛情も、それと同じものがあたくしのうちに見出せなかったから、かえって永つづきしたのかも知れませんわ。ところがあたくしには、あなたの愛情を永つづきさせるような、そんな方法なんかないんですもの。むしろ、あたくしの考えでは、いろいろの障害があったからこそ、あなたの恋も長もちしたのではないかしら。余りに多くの障害にぷつかったものだから、それを打破しようという一種の刺戟にかられたわけですのね。それが今となっては、あたくしは心ならずもこんな[ヌムール公への愛の]告白をしましたし、その他、偶然からいろんなことをご存じになって、あなたは安心しきっていられるので、かえってうんざりなさるのではないでしょうか。」[新潮文庫版 p.219-221]

はい。反論できません。ていうかせいぜいこの↓程度。 ヌムールさん叫んで:

 「だまって聞いておれとのお言葉でしたが、ああ! もう私には我慢できません。」 ヌムール公は語をついだ。「それはあまりにも見当がはずれています。そして、ひとの好意を無にするのも甚しいものです。」[新潮文庫版 p.221]

しかし、ぶちかましは さらに続きます。

 「正直に申しあげますと、」 彼女は答えた。「あたくしは、恋の導くままに行動するかも知れませんけれど、そのために盲目なんかになりはしません。あなたという方は、生れながらに恋愛にはうってつけの性格ですのね。そして、何時だって相手を射とめずにはおかないお腕前をおもちですのね。これはもう疑えっこないところですわ。これまでにも恋愛のご経験はずいぶんとおありのことでしたし、これからだってあることでしょう。もうあたくしなんかはあなたの幸福にはならないでしょうよ。あたくしのかわりにどなたか他の人になさるのではないでしょうか。そんな日が来たら、きっと、あたくし、死ぬほど苦しむと思いますわ。そして、残念ながら、嫉妬にかられないとは保証できそうもありません。[略]
 だから結局、苦しむのは覚悟でいなけれぱなりませんし、そうかといって、愚痴をこぼすわけにもいきません。恋人になら愚痴も言えます。しかし、夫の場合、自分がもう愛されていないからといって、苦情など言えるものでしょうか? まあ、この種の不幸にはどうやら慣れることが出来るとしても、[死んでしまった前の]夫の亡霊が何時もあらわれて、自分の死をあなたのせいにし、あたくしがあなたを愛し、あなたと結婚したことを責め、自分の愛情とあなたの愛情を比較させたりするとしたら、そういう場合の不幸に慣れることなど出来るものでし上うか? こういう立派な理由がある以上、それを鮭視することなど出来る筈はありません。やはり、あたくしは今のままの状態にふみとどまっていて、そこから絶対に出ないという決心をかためるのが一ばんだと思います。」[新潮文庫版 p.221-222]

はい。反論できません。
せいぜいこんな↓もん:

 「へえ! それが出来るとお思いですか?」 ヌムール公は大声をあげた。[新潮文庫版 p.222]



で、隠遁オチ、と。