与謝野・林・草郷(2016)『社会的信頼学』

社会的信頼学: ポジティブネットワークが生む創発性

社会的信頼学: ポジティブネットワークが生む創発性

  • 第1章 社会的信頼とは何か
    • 1.サーカス  
    • 2.他者を信頼している人と,他者からの信頼を受けるに値する人 
    • 3.社会的信頼の概念
    • 4.信頼感の多い社会と少ない社会
  • 第2章 一般的信頼の社会的機能と概念・測定上の問題
    • 1.無知の信頼としての「一般的信頼」
    • 2.「信頼の解き放ち理論」
    • 3.一般的信頼とカテゴリー的信頼
  • 第3章 信頼の測定
    • 1.はじめに 
    • 2.質問項目による信頼の測定
    • 3.場面想定法による信頼の測定 
    • 4.信頼行動の測定
    • 5.おわりに
  • 第4章 協働を可能とするつながりの創生―PONET システムの実践―
    • 1.信頼の機能分析から信頼関係を生み出す実践へ
    • 2.社会的信頼システム創生としてのポジティブ・ネットワーク形成
    • 3.PONET システムの構成
  • 第5章 市民協働型アクション・リサーチの意義と実践
    • 1.はじめに
    • 2.アクション・リサーチの展開
    • 3.市民協働型アクション・リサーチとコミュニティ開発
    • 4.地域住民主体の協働型アクション・リサーチ
    • 5.市民協働型アクション・リサーチの意義,課題と展望

第3章「信頼の測定」

4.「信頼行動の測定」

しかし囚人のジレンマの協力行動を純粋な信頼行動とみなすことには問題がある。なぜなら、囚人のジレンマで協力を選ぼうとするとき、その人には協力の意図(自身の信頼性)があると考えられるが、実際に「協力」を選ぶためには「相手も協力してくれるという期待(相手への信頼)」が必要である。反対に「非協力」を選ぶ理由として、「自分は相互協力を望んでいる(自身の信頼性)が、相手が協力してくれないかもしれない」という「搾取への恐れ」(信頼感の欠如)が考えられる。しかしそればかりでなく、「可能であれば相手から搾取しようとする意図」(自身の信頼性の欠如)も想定できる。このため、囚人のジレンマ状況では、行動選択に信頼感と信頼性が分離されない形で存在しているため、現在では信頼の測定に囚人のジレンマが用いられることは稀である。[51-52]

注12)囚人のジレンマを改良し、信頼感と信頼性を分離しようとする試み(垣内・山岸 1997)があるが、ここで述べたような測定上の問題は、本質的に回避できていない。

信頼感と信頼性の双方を測定できないと信頼の測定にはならないよ、ということかな。