沼上『行為の経営学』

昼食。
asin:4561151265。4、5、6章。
章ごとに要約がついてるのがたいへんよい。

  • 第5章 行為システム記述の復権に向かって──〈読み〉の解釈と時間展開を伴う合成──
    • 1.行為システム記述の復権
    • 2.行為システム記述の研究指針
      • (1) 超合理的な行為者による説明法──陰謀説──
      • (2) 〈意図せざる結果〉の探求[1] ──共感と集計──
      • (3) 〈意図せざる結果〉の探求[2] ──解釈-合成による説明──
    • 3.要約と結論
  • 第6章 説明法の事例研究──〈柔軟性の罠〉の説明原理──
    • 1.取引システムの柔軟性と技術転換への適応力
    • 2.経験的研究の2つのアジェンダ
    • 3.記述──反証事例の確認──
      • (1) 事例の概要
      • (2) 技術転換のタイミング
      • (3) 取引システムの柔軟性
      • (4) 要約
    • 4.解釈と合成
      • (1) 当事者たちの直面した技術の選択肢
      • (2) 技術進化シナリオ
      • (3) ウォッチ・メーカーの戦略
      • (4) 生成される技術進化経路
      • (5) 超合理的な企業
    • 5.基本論理構造の整理
      • (1) 柔軟性の罠の直接的な含意
      • (2) 基本的な論理の構造
      • (3) 変数システム記述と行為システム記述

6章の事例研究で、著者がよしとする研究スタイルはわかった。(ここを先に読んだ方がよかったかもしれない。)
が、問題は この章と他の章との関係である。


議論の焦点は、まずは研究の目標に関する区別〈法則定立を目指す社会研究/目指さない社会研究〉という区別のほうにあって、そこに対象の切り方についての区別〈変数システム/行為システム〉が、重なる。
 はじめ誤解してしまったのだが、著作の前半のほうの議論は「〈法則定立を目指す〉という姿勢がスタンダードになると、〈変数システム〉で対象の切っていくやり方が優位になる」(大意)という前フリ用のネタだったらしい。 そのうえで著者が持ち出す対立は──この点も最初の予想は(ある意味)外れたが──、

    • 【法則定立を目指す-変数システム】v.s【法則定立を目指さない-行為システム】

という対立で は な くて、

    • 【法則定立を目指す-変数システム】v.s【法則定立を目指さない-行為システム+変数システム】

というほうなのであった。


「行為システム+変数システム」双方を用いた研究というのは──これは予想の通り──、ひとことでいえば「変数システムの分析によって導かれるマクロ変数に対して、行為者の意図の観点を読み込んだ解釈を施す」というやりかたで「ミクロ-マクロ」を架橋するモデルをつくる、というもの。
てことで──「モデルをつくる」という点を上の対立図式に明示的に書き込むと──、第6章最後のとこまでのはなしは、

    • 【法則定立を目指してモデルをつくる】v.s【法則定立を目指さずにモデルをつくる】

という対立に落ち着くことになる。


するとつぎの議論の焦点は、「ならば法則定立を目指さない社会研究の意義ってなに?」ということになるわけだが。
残念ながら、とにかく でかいハンマー──「社会科学に法則定立なんかできない」──を ぶんぶん振り回すので、著者がその点を、

また、「変数システム+行為システム」でモデルをつくる意義を

どう考えているのかつーのが いまひとつ分かりにくいことになっているわけで。 腑分けして論じると面白い(かもしれない)あれこれの論点*が 大雑把にすり潰されてしまっていることよなぁ、‥‥という慨嘆とともに6章までを読了。

* たとえば、事例研究に向けられる「その知見に一般性はあるのか?」という批判にどう応えるか、とか。変数分析と時間性の関係、とか。 その分節は「読者に任されている」の感あり。
他方、「法則定立を目指さない」という否定的規定を積極的に言い換えたものとしては、「意図せざる結果」や「(法則ではなく)規則性」の記述をめざす(大意)などなどがあげられているけど、なぜ・どこから そいつらがでてきたのか、相互にどういう関係があるのかは、わからない。