『エプタメロン(七日物語)』

俺がすごい勢いでいろんな古典文学を読むスレ。



一日目。
物語より登場人物のほうがとんでもない。一日目のプロローグ、ピレネー山中の温泉コテレットからの帰り道、大雨に途を遮られた老若男女10人が、急流の河畔セランスの寺に続々集結してくるシーン。の最後。

 その日の夕方、一同が床に就こうとしたとき、いつも九月になると、セランスの聖堂にやってくる一老神父が到着したので、旅の道中のことをたずねると、老神父はおもむろに語り出した。「洪水の結果、山越えをして、ひどく悪い道を通って来たのですが、そのときたいへん悲しい一つの光景にぶつかりました」という話がきっかけで、シモントーという一人の紳士が、水のひくのを待ちあぐみ、とても待っている気にはなれなくなり、乗ってきた馬を唯一のたよりにして、急流を渡りきろうとしたというのである。
 この紳士は水流を阻もうと、召使たちを自分のまわりに垣根のように立ちならばせた。しかし、流れの真ん中あたりに差しかかると、かわいそうに、召使たちはみんな急流に流されてしまい、ついに行方不明になってしまった。

ひどい....(;´д⊂)

 そこでこの紳士は、もとの岸に戻ろうとしたが、そのときはすでに、さすがの駿馬も力つきてダメになっていた。
 がしかし、幸い岸近くだったので、どうにかこうにか、はい上がるには上がったものの、したたか水をのみへとへとに疲れ切って、からだを支えることも覚束ない有様だった。
 ところが、ちょうど運よく、夕暮れだったので、羊飼たちがそこを通りかかって、この紳士の窮状を見てびっくりした。ずぶ濡れになって、石に腰をおろし、大切な召使たちが、目の前で溺れ死んでいった恐ろしい災難をつくづく思い浮かべ、がっかりした表情でうつむいていた。

災難というか間違いなく あなたのせいですが?

 この紳士の様子と言葉から察して、羊飼は紳士の手をとって小屋に連れて行き、火を起こして濡れ鼠になった体をかわかしてやった。
 この日の暮れ方、奇しくも、老僧がこの小屋に立ち寄ったのだ。僧は、彼にセランスの聖母の修道院へ行く道をくわしく教えてやり、また、そこでは宿泊の準備もちゃんと、ととのっていることや、彼と同じように不幸な目にあったオワジルという、年寄った未亡人がいることなども教えてやった。

次の文↓が意味不明。

 紳士はやさしいオワジル婦人のことや、立派な紳士シモントーのことなどを聞いて、ことのほか喜び、そして、たとえ、召使いたちは死んだが、せめて自分だけでも助かったことを神に感謝した。

主語(=紳士)は誰?



ところで識者の教えを請う。
「角を生やす」ってなに?

  • 一日目第2話「ナポリの王様が、ある紳士の妻を誘惑して、自ら角を生やすに至ったこと」
    • 王様、或る奥さんを寝取る。寝取られ夫は──復讐のために──王様のお妃を寝取る。寝取り寝取られ4人組。旦那が出かけると、王様がやってきて奥さんとムツミあうのだが、その間旦那は王妃さまのところにいる罠。みんな(・∀・)ハッピー!

 こうした関係は何の障害もなく、平和に長く続きました。
 しかし王様がどんなに色事を隠そうとなさっても、世間にはとうの昔知れわたっていたのです。
 ですから人々は、王様に妻を犯され続けたこの紳士を心から同情しましたが、かげで角を生やしていた性悪な連中は嘲笑していました。
 彼はそれをよく承知していたのでひそかに笑っていました。といいますのは、彼は己れの角を王様の冠と同じくらいに上物であると考えていたからです。
 で、ある日のこと、王様が紳士の家に来られ、壁に掛かっている一対の鹿の角に眼をとめられ、主人のいる前で、笑いながら、思わず言われました。
 「この鹿の角はまったくこの場所に似合わしい」
 王様と同じくらい茶目気な紳士は、王様が帰られると、鹿の角の下に次のような銘を掲げました。
 《我は万民の認むる角を生やしておるなり。角なりと考うる彼もまた角を生やしおるなり》
 次の来訪の際に、王様はこの銘を見て、その意味を尋ねられました。すると紳士は次のように答えました。「もしも牡鹿が王様の秘密を知っていませんでしたら、王様が、牡鹿の秘密を知られることはよろしくありません。王様、帽子が角でとび上がっている人だけが、角を生やしているのではありません。ある人々の角はたいへんに柔らかいので、それと知らないで角を生やしています。このことをお知りになるだけで満足して下さい」
 この返事から王様は、紳士が何かかぎつけたことを知りましたが、彼と王妃との関係は疑いもしませんでした。
 王妃様はたいへんにうまくその役を演ぜられ、彼の振舞いを喜ばれれば喜ばれるほどかえって不満な振りをされました。このようにして彼らはいつも仲よく、老齢になるまで快楽を続けました。
 御婦人方、私はこの物語で、貴女方が御主人によって角を生やされるときには、同じように角を生やしてやって、それによって復讐ができるという実例をお目にかけた次第でございます。(上掲訳書 p.51-2)

三省堂『故事ことわざ・慣用句辞典』http://www.sanseido.net/

角(つの)を出(だ)す

  • [注記] 能で、嫉妬した女性の生霊が鬼になることから

女性が嫉妬心を起こす。

    • 「いつも秘書の女性を連れて出歩いていたら、それを知って家内が角を出した」
  • [類句] 角をはやす

ほほう。
フランス16世紀文学に能の影響が。ていうか...。



をぉっ。イソターネットてすばらしい。疑問氷解。

ギリシャ人の軽蔑サイン》
[略]
 軽蔑のサインは他に、上下にシェイカーを振る様なしぐさをするものや、頭を傾けて片手で支え、おやすみ!とでも言う様なしぐさをするものもあります。これは相手の未熟さを示すサインです。寝取られ男」を意味する軽蔑のサインは頭上で日本風に言えば鬼のような牛の角をはやす真似をするもの。極めつけは股間に両手をかざし、相手に向かってみせつけるサインでしょう。
 毎夏野外劇場で催されるフェスティバルで、去年はアリストファネス(B.C. 450〜385)の喜劇「鳥」を見ました。その時このしぐさの連発で老若男女、子供達まで大笑い。良く見たら黒僧衣のギリシャ正教の坊さんまでお腹を抱えて笑っていました。