いただきもの:井奥陽子(2020)『バウムガルテンの美学:図像と認識の修辞学』

どうもありがとうござます。小谷進捗報告会のメンバーで、一度だけ草稿検討会を開催させていただきました。
 美学史のみならず思想史・哲学史におけるバウムガルテンの重要性自体は誰もが知るところですが、一冊まるごと使ってバウムガルテンについて教えてくれる本は 残念ながら日本語圏には ほとんどなかったのではないかと思います。本書は、幸いなことにとても平明に書かれていて──この周辺時代のドイツ思想に関する書籍としては あるまじき平明さで──私にもスラスラ読めたので、皆さんにもきっと読めます。読むと「こんな有名人なのに こんなにわかってないことあるの?」ってびっくりするよ。

バウムガルテンの美学:図像と認識の修辞学

バウムガルテンの美学:図像と認識の修辞学


目次見ればわかるけど、バウムガルテンの構想が古典的修辞学を転用・拡張することで作られていることに照準したものになっているので、美学に関心がある人はもちろんのこと、修辞学に関心があるひとも読んでも楽しい内容になっています。
 本書の長所は少なくとも二つあって、一つは、バウムガルテンの美学構想のどの部分が 古典的な修辞学の体系のどことどう対応するかを見定めて、それをどう変えるとバウムガルテンのアイディアが出てくるのかを丁寧に教えてくれる点。それだけ見せられてもよくわかんないテクストを前に無駄に想像力を羽ばたかせずに済むので安心して議論についていける。
 もう一つはその副産物ですが、古典的な修辞学について一緒に学べる点。古典的な修辞学の体系を学べる本も、いかにもありそうなのに(あってほしいのに)実際にはそうでもない*ので、この点でも貴重です。
 というわけで、美学史にも修辞学にも 大いに関心があるけど、どちらもしっかり学んだことはない、という私のような読者には大変ありがたい一冊でした。おすすめ。

* わたしの本棚を見ても、すぐに見つかるのは(=手軽に入手できるのは)修辞学の非専門家が書いたこの本くらい。こんなんでいいのかしら?って思いますね。

旧修辞学【新装版】

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旧修辞学【新装版】 | みすず書房