涜書:ゴールドラット、『クリティカルチェーン』

http://d.hatena.ne.jp/contractio/20040807#1091809396
読了。

とりあえず自分の業務が「クリティカル・チェーン」のど真ん中にいることがわかりましたw。どうしたものやら。


出てくるのがみんな実務的な例で、話として非常に面白く読んでたんですが、途中までずっと「プロジェクトが一つ」という条件で話がすすんでて、「面白いけどつかえねーなぁ」と思ってました。が、最後の2章くらいで突如、条件が順次だかだかと加えられて行って、話が複雑に。(複数プロジェクトがボトルネックを「共有」する場合の──つまり「ふつうの業務」の──話になる。そしてここでようやくタイトルになっている「クリティカル・チェーン」が登場)。
でも、前半部分の「プロジェクトが一つ」の話──「クリティカル・パス」と「ボトルネック」の関係の話──が丁寧に進められていたのがここでちゃんと効いていて、振り落とされずにすみました。よくできてるなぁ(さすがベストセラー!)、と感心。
『ゴール』のほうも読んでみることにしよう。ほかに二つも本がでているらしい。


「驚くかもしれないが、君に賛成だ。一〇〇パーセント賛成だ」
意外な言葉に、私は口を閉じた。
「とは言ったものの、……実は少しばかり失望している」
口を開け閉めするのには疲れた。私は黙っていることに決めた。
「君のこの説は、どう言ったらいいのかな、好奇心をそそるとでも言うんだろうか。確かに面白いんだが、まったく実用的ではない。そう思わないかね」
そこまで言われるとは。しかしよくよく考えてみれば、彼の言うとおりだ。「いつ、それぞれのパスで作業を開始したらいいのか、それを提示することができなければ、確かに実用的とは言えません」私は素直に認めた。
「いや、そういうことじゃない。わかっていないな」そう言いながら、ジムが頭を振った。
どうも私には、ジムが言わんとしていることがわからない。
「いいか、リック」苛立ちを抑えながらジムが言った。「把握しているかいないか、注意を集中しているかいないか、そんなこと数式で表すことなんかできない」
「ええ、だから?」
「だから、この問題は数学的に解決できないんだ」[123頁]

プロジェクトマネジメントにとってではなく、まずは、テニュアを取るという課題にとって「実用的」でなければ、と。

JIT(ジャスト・イン・タイム)や TQM(トータル・クオリティ・マネジメント)のようにパワフルな何かを探していたんです。JIT や TQM だって、数学的な理論ではありません。常識をべースにしているからこそ、筋の通った理論をべースにしているからこそパワフルなんです。まだまだブレークスルーに到達するには、道のりは長いのはわかっています。答えもまだ見つかっていません。でも、何が問題なのかはわかりました。大きな進歩です。認めてくださってもいいと思うのですが」
「役には立たないな」ジムは大きなため息をついた。
「よくわかりません。どうしてですか」
君も大学という世界へ入って10年になる。そろそろルールを理解しないといけないな。

あなたもいつかも言ってみたいと思いませんかこのキャッチーな台詞。

「この世界で身を立てるためには、書かないといけない。書くためには、一定の標準に従わなければいけない。論文を書く時に、何が求められているのか、そんなことは君も知っているはずだ。リサーチの結果や数学モデルにもとづいていなければいけないんだよ
「しかし、ジム。それだったら、JIT や TQM はどうなるのですか。いまの説明では、JITやT QMは大学では理論として不足だということになります。だけど、どこの大学でも教えていますよ」
産業界で、実証済みだからだ
「でしたら、JIT や TQM のような理論で新しいブレークスルー的なものはどうなるんですか」
「もし見つけたら、本を出せばいい。出版するのは自由だ。本だったら、周りからいろいろ言われることもない。しかし本を出しても、いちばん上の教授職を得るには役に立たないぞ。学術論文でなければダメだ」
「わかっています。でも、馬鹿げていませんか」

「君は気に入らないかもしれないが、実は私も気に入らないんだが、学術界における無秩序を防ぐためには、みんなが一定の標準に従うしかない。民主主義やこの国の法制度と同じだ。確かに欠点はある。そのせいで失うものもあるかもしれない。しかしいまの現状では、それがベストの方法なんだ。」[125-126頁]

ごもっとも。
まったくのカリカチュアとも見えないような。これが「皮肉」として効くのは、著者が物理学の出身だから?──てことはないか。

もっとも、日本だと──業界によっては──査読論文より単著のほうが「評価」されたりするらしいですが。それじゃなんのための査読誌なんだってのw。わけわからん。
ま、どこも みなさん たいへんですな。