借りもの:梅岡・田所(1984)『行動科学入門』/犬田 充(1968)『行動科学入門』

行動科学入門 (1984年) (大学教養選書)

行動科学入門 (1984年) (大学教養選書)

〈行動論〉と並んで〈認知論〉という研究分野が「行動科学の中に立てられるようになったのも1965年ごろのことである。[13]

文献

情報理論」と名のついた最初の論文集。イリノイ系。

  • Henry Quastler (Ed.), Information Theory in Biology, University of Illinois Press, 1953.
  • Henry Quastler (Ed.), Information Theory in Psychology, Free Press, 1955.



行動科学入門―科学的方法による人間の理解 (1968年) (ケイエイ選書)

行動科学入門―科学的方法による人間の理解 (1968年) (ケイエイ選書)

  • まえがき
  • I 行動科学の成立──人間行動研究のニュールック
  • II 行動科学の「本体」──消費者行動の研究を通じて
  • III 行動科学と現代──コンピュータ時代の思考転換

犬田先生は執筆(1968年)時点で、日本学術会議長期研究計画委員会 人間科学小委員会専門委員。

行動科学への反対

軍事科学としての行動科学について。マートンたちが提出した「行動科学の国家的援助」(1958)からのかなり長い引用。

"National Support for Behavioral Sciences, February, 1958" in Behavioral Sciences, Vold.3, No.3, July, 1958, pp.217-227

pp. 190-194.

人間の最大の希望ある応用ではないけれども、おそらく行動科学の軍事的利用は連邦政府資金の支出額に関するかぎり、ほかのすべてを引き離している。たとえば、第二次大戦中において、多くの業績がある。標準化された能力テストは、士官志願者の選抜の効率を目立って高めた。空軍では、訓練の失敗は 61% から 36% に引き下げられた。陸軍の研究部は、徴兵における潜在的な精神病患者をふるいおとすテクニックを開発した。海軍の精神医学者は、このような患者が軍務に復帰する率を改良した。戦争の初期において、精神病患者の 5% から 10% だけが、軍務にかえることができたが、新しいやり方の採用によって、精神医学者は 60% を2日から5日で、前線での任務にかえらせることができ、残りの 30% は後方での任務につくことができた。いくつかの問題は存在しないことが明らかになった。例えば、軍需産業の労働者の間での欠勤サボの原因について、多くのことがいわれていた。調査によって、病気とか、子供の世話をしなければならないので女性が家にとどまっているといったような、正常な理由以外の理由による欠勤サボは非常に少ないか、あるいはないという事実が明らかになった。アメリカ人に戦時公債を買うことを納得させる、より効果的な方法が始められた。アメリカの兵隊を選抜するときに使われたいくつかのテストは、戦闘能力とまさに相関することがあとでわかった。産業心理学者は、兵器や装置のデザインを助けた。文化人類学者は日本人の士気を正しく予測した。このリストはもっと続けることができよう。
 基礎的研究の諸領域のそれぞれは、軍事的な意味をもっている。そして戦争の方法がより効果的になるにつれて、軍事的システムの中での人間の行動の理解の、よりいっそうの正確さの必要が増大してくる。適正な人事選抜、訓練、管理とリーダーシップ、協力と士気の維持──これらすべては、軍事生活において、いよいよ緊急となっている日常的な問題である。洗脳、心理戦争とその防御方法、情報の獲得、処理、評価──これらは軍隊にとって特に重要な問題である。超音速の飛行機や高速で情報hを伝えてくる電子警戒装置における人間の機能、その限界、低酸素、極低温、高重力、無重力、宇宙船の照射は、人間にどんな効果を持つであろうか。孤独状態で任務を遂行するとき、あるいは重い意思決定の責任をおわされるというストレスのもとでの感情の安定性──これらすべては、行動研究の諸問題である。これらは普通の生活でも起こりうるが、新しい兵器、新しい戦略、新しい宇宙空間での戦闘の可能性という、軍事的な状況において、特に差し迫ったものなのである。
 ジェット機から宇宙船へ、原子砲から大陸弾道弾へ、独立した戦闘員から大陸間の電子警戒装置へ、兵器が進むにつれて、人間への要求はますます増大するであろう。人間の能力のばらつきは、いままでは戦争においても受け入れられていた。というのは、そのほかの多くの要因がゆらぎをもっていたからである。しかし現代の兵器システムにおいては、誤差の最大の源泉は人間にあるのである。そして、その結果、人間の行動の厳密な科学が緊急に必要となってきたのである。われわれの防衛問題の新しさが、戦争におけるヒューマン・ファクター(人的要因)の、古くからの過程の、想像力に富んだ再検討と伝統にとらわれない研究を要求しているのである。

 一国の力は、物質的な資源をどれだけ有効に利用できるかを決定するヒューマン・ファクターによって決まる。社会のフォーマルおよびインフォーマルな組織とともに、国民の健康、士気、モチベーションに依存している。……社会の生産性はこれらのヒューマン・ファクターに依存する。これは行動科学の研究主題である。
 将来の発展によって、米国人は次のものに対する態度を大幅にかえなくてはならないだろう。防衛支出、危機の可能性に対する警戒、敵国の心理戦争に対する抵抗、職業的な軍隊の必要性の承認。これらは長らく確立されてきた伝統的な態度の変更によってのみ達成されるであろう。この過程は行動科学の綿密な研究が必要である。さらに、戦争の場合に、もっとも深刻な危機は、士気の喪失、絶望、あるいはパニックである。……
 攻撃に抵抗する強さ、あるいは能力への信頼の欠如、あるいは放射性降下物にたいする危惧、また経済の予知しがたき崩壊にたいする恐怖もあるだろう。こうした諸反応をよりよく予測し、その諸結果を緩和するために、さらに行動科学を研究することが必要である。
 もう一つの急速に発展しつつある分野は、労働と産業における人間関係である。これはわが国の一般的な生産性を高めるものである。この分野での基礎研究を助成することが必要である。

 ロシア人に対する恐怖、ソビエトの挑戦に応ずるために、われわれのとらなければならない手段だけが、このような研究を助成するただ一つの動機ではない。われわれの優位の確保、それらを世界とともに共有することが、強敵に対する恐怖よりも、もっと強い動機なのである。動機が何であれ、結論は同じである。米国は、物質的にも道徳的にも、強固でなければならない。それ故に、この力に寄与するであろう行動科学の研究をすすめることが必要なのである。

メモ

「行動科学の国家的援助の必要性」には邦訳があった。

  • 概説・行動の科学(犬田充)
  • 人間の科学(田中靖政)
  • 機械文明と行動科学(田中良久)
  • 行動科学の哲学的基礎(吉村融)
  • 行動科学と行動学(南博)
  • 行動科学の思想的背景(山下正男)
  • 行動科学と平和-平和の科学的研究と科学研究の平和利用(武者小路公秀)
  • 政治とシュミレーション(関寛治)
  • 政治意識研究における行動科学的アプローチ(飽戸弘)
  • 市場調査・多変量解析(吉田正昭)
  • 行動科学の国家的援助(1958年2月)(Raymond A.Bauer等著 犬田充,大原勝良,鈴木格共訳)
  • わが国における人間行動研究体制 その検討経過 解説(犬田充)