第42回 日本保健医療社会学会RTD「問題経験の語りと専門的知識」

日本保健医療社会学会のラウンドテーブルにて登壇します。
会場は追手門学院大学

 本企画では、問題経験の当事者が自らの経験を理解するさいに、さまざまな専門的知識とどのような関係を取り結ぶことになるのか、について考察する。何らかの病いを患う経験をするさいに、あるいは何らかの困難を経験するさいに、当事者は、さまざまな形で専門的知識に出会うことになる。その出会い方は、さまざまな状況に応じて、多様なものでありうる。一方で、その専門的な知識がそれに出会う当人の日常生活を圧倒するように経験される場合もあるだろう。専門的知識は、その本性上、簡単に理解することが難しく、その知識を提示されたものを当惑させることもあるだろう。他方で、その問題自体が、その新しい知識のもとで輪郭を与えられ、経験される場合もあるだろう。本企画では、酒井による全体の趣旨説明のあと、3人の報告者によるそれぞれの領域における問題経験の語りの分析をもとに、専門的知識との関係の取り結び方の多様さを確認するとともに、こうした問題に社会学的にアプローチしていく方法と意義について、討論を行いたい。
 中村は、摂食障害をめぐる知識や言説が、摂食障害の発症・維持・回復にどのように影響しているのかについて、当事者のナラティヴに基づいて報告する。摂食障害は、しばしば、それぞれの専門的立場から「個人」「家族」「社会」の問題などとして語られてきたが、こうした専門的知識に対して、当事者がどのような新たなナラティヴを立ち上げているかについても示す。ここから、問題経験の領域における社会学の意義を考察する。
 鶴田は、「性同一性障害」という概念が、医学概念から、当事者にとって生き方を示す概念へと変化してきた経緯について、報告する。この概念が、性別適合手術を可能にするための手段として登場した経緯から出発して、現在、「在職トランス」として生きる当事者や職場の人びとにとって、病気ですらないものとして受け入れられていく日常を明らかにする。その上で、(脱)医療化の問題についても考察する。
 前田は、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)という単一遺伝子疾患を生きる人びとが、新しい医学的知識のもとで、どのように自らの経験の理解を変えてきたかについて、報告する。とくに患者会の活動を通じて、治験への参加、新薬の承認、新しい難病法のもとでの助成などが可能になってきた経緯について明らかにし、専門的知識と折り合いをつけていく人々の方法論の一例を示す。
 以上の3報告と、それらに対して浦野が提示するコメントをもとに、問題経験の語りにおける専門的知識の位置づけの多様性について確認し、社会学がその理解においてはたす役割と意義について、討論を行いたい。