第12章「信頼と不信の合理性」

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12章最終段落。175-176.

 以上の考察の結果、我々は、最初の出発点に立ち返ることになる。その出発点とは、社会的な複雑性にはかならない。歴史的にも内容的にも、信頼はさまざまな形態をとる。

  • 原始的な社会秩序と文明化された社会秩序では、信頼は異なった様式をもつ。信頼は、
    • 自然発生的に成立した人格的な信頼であったり、
    • 戦術的な洞察にもとづく人格的な信頼であったり、あるいは
    • 一般的なシステムのメカニズムにたいする信頼であったりする。
  • 一義的な倫理学的教示によって、信頼を捉えることはできない。機能の側面から捉えることによってのみ、信頼を統一的に把握し、機能的に等価な他の働きと比較することができる。
  • 信頼が社会的な複雑性を縮減するのは、信頼が情報不足を内的に保障された確かさで補いながら、手持ちの情報を過剰に利用し、行動予期を一般化するからである。
    • そのさい、信頼は、同時並行的に形成される他の縮減の働き──例えば、法、組織、そして当然のことながら言語の働き──をつねに頼りにしているが、それらに還元されるわけではない。
  • たしかに、信頼は、世界を成り立たせている唯一の基盤ではない。けれども、かなり複雑な社会が成立しなければ、高度に複雑でしかも構造化された世界を表象することはできないし、また信頼が存在しなければ、高度に複雑な社会を構成することはできないのである。