菊澤『組織の経済学入門』

夕食。
きょうは「取引コスト」のおはなしの前半です。

組織の経済学入門―新制度派経済学アプローチ

組織の経済学入門―新制度派経済学アプローチ

  • 第2章 取引コスト理論
    • 1 取引コスト理論の基本原理
    • 2 取引コスト理論と組織デザイン

まで。

ウィリアムソンは、[新古典派経済学における「効用最大化仮説]と「完全合理性」という]これらの仮定のうち完全合理性の仮定を非現実的としサイモンの影響を受けて、以下のような「限定合理性(bounded rationnality)」の仮定と「機会主義(opportunism)」の行動仮定を取り入れた。

  • (TC1) すべての人間は自分の利益のために悪徳的に行動する可能性がある
    • この「機会主義」の仮定は、「効用最大化」の仮定と本質的には同じものである。というのも、内面からみたときに効用最大化している人間行動は、外から見ると悪徳的な機会主義的行動としてみえるからである。
  • (TC2) (略) [p.20]
Ω ΩΩ<な、なんだってー!?


■メモ

価格メカニズムによる資源配分の基本イメージ:

  • ある財について需要よりも供給が多ければ、価格は下がる。
    • 下がった価格において財を生産・供給できないアクターは市場から退出する。
  • ある財について供給よりも需要が多ければ、価格は上がる。
    • 上がった価格において財を購入できないアクターは市場から退出する。

この↑、いわゆる「市場メカニズム」が 完全に なりたっているのなら、そこに「組織」が登場する余地はない。逆に、ここからずれる要因を特定できれば、それによって「組織」の存立事情についてなにかいえるかもしれない。ので、それについて考えてみよう。
「市場」と異なる資源配分メカニズムが存在し、場合によっては、そちらのほうが費用が安くすむならば、人はそちらを使うだろう──

企業は、財を購入して それをもとにほかの財をつくり、売る。買って売るまでにかかったすべての費用よりも、売った値段のほうが高ければ商売がなりたつ。買って売るまでにかかる費用が、市場を利用するよりも安くすむ他の手段があれば、ひとはそれを使うだろう──

というのがさしあたっての話。そして、その「別の資源配分メカニズム」を名指すために、ここでは「組織」という名前が使われている。それは我々がふつうその名前で呼ぶものと、ちっとも似ていないけれども。

コースの議論 [Coase 1937]

コースの準拠問題
  1. なぜ、市場とは別に、組織が存在するのか。
    • 価格による調整とは別に、権限にもとづく調整が存在するのはなぜか。
  2. 企業の規模は、どのように決定されるのか。
    • 企業の規模は、単一生産物についての規模の経済──〈限界コスト(生産物1単位増産するのにかかるコスト)/限界収入(生産物1単位を増産して得られる収入)〉のバランス──のみによっては決まらない(ふつう企業は複数のものを生産するから)。ではどのような事情に左右されるのか。
コースの回答
  • 市場も組織も、どちらも資源配分メカニズムである。どちらにおいても、取引コストが発生する。
    • 市場においては、取引相手探索・選定のコスト、契約にかかるコスト、契約履行のモニタリングにかかるコストなどが発生する。
    • 組織においては、経営者と従業員間の駆け引きから生じるコスト、従業員の能力把握にかかるコスト、行動モニタリングにかかるコストなどが発生する。
  • 回答1: 企業は取引コストを節約するように行動する。市場を使うよりも組織を使ったほうが安ければ、企業はそれを利用する。
  • 回答2: 部品を 市場から調達することも 内製することもできるなら、企業は、【総コスト=市場調達にかかる取引コスト+組織内取引コスト】を最小化するように振舞うだろう。これが企業の規模を決める。


回答になっているようにはみえませんが...

ウィリアムソンによる展開 [Williamson 1975]

ウィリアムソンの準拠問題
  1. 取引費用はなぜ発生するか。
  2. 取引費用の大きさはなにによって決まるか。
ウィリアムソンの回答
  • 回答1: 取引に費用がかかるのは、取引というものが、「限定合理的」かつ「機会主義的」な人間同士によっておこなわれるものだからである。
    • ひとは、騙し騙されることができる。そのことへの対処にはコストがかかる。
  • 回答2: 取引費用は、取引状況の特徴──資産特殊性、不確実性、頻度──に依存して増減する。
  • 資産特殊性 asset sepecificity: 資産の特殊性が高いと、取引費用は高くなる。ここで「特殊な資産」とは「相手を選んでしまう資産」ということ。
  • 不確実性 uncertainty: 不確実性の高い取引では、取引費用は高くなる。
  • 頻度 frequency: 取引の繰り返し頻度が小さいと、取引費用は高くなる。取引を繰り返して相手についての情報が得られれば、取引費用は低くなる。
    • このうち、資産特殊性は特に重要。
資産特殊性と統治制度



■本日の疑問

  • 取引コストと生産コストとの関係って?
  • (同じことがだが)「取引費用」概念の外延って?