本日の涜書

タイトルが泣かせる。 「計算すればわかる」ではないのだ。「計算しないとわからない」ってことは、「計算したからといってわかるとは限らない」ということ。ま、そりゃそうだけどさ。少なくとも「進化論がわかった人は計算した」のだ、と(w。
ともかくなにしろ読者が計算させられる本なのだろうと予期=期待しつつ、若干の覚悟(と紙と筆記用具とマシンの用意)をして読みはじめたところ、拍子抜け。なんと「計算する」のは著者なのだった。しかも、実際の計算過程が出てくるわけではないので、“「本文」を書く背後で著者が計算している”のを推測させてもらえるだけ(というか、コンピュータに計算させたらこうなりました、というのを大雑把に見せてもらえるだけ。「こうやって計算させてみましょう」ですらない。)。


[目次]
第1章 進化論への疑問には人工生命が答える
第2章 ゴジラはこうして生まれた
第3章 自分勝手でなぜ悪い
第4章 人工生命白書
第5章 おわりに
中心となるのは3章の議論で、「TfTが最強の戦略とは限らない」とか「一つの戦略だけを取り上げて、ESSと考えるのは間違い」とかいう“まことにごもっとも”な話が展開される。「TfTが強い」といえるのは、あくまで競合する(特定の)他の戦略との相互作用のもとにおいてなのだから──「TfTいつでも強い」なら「進化的に安定な戦略」という意味がなくなるのだから── この指摘はトリウ゛ィアル。なので、この本を楽しむには ゲーム理論に関する教養の不足聡明さ・洞察力の適切な欠如 か のどちらか(あるいは両方)が必要。双方の理由からして、とりあえず私自身は この本の適切な読者だったようです。