涜書:小松(2007)「リスク社会と信頼」

つづき。id:contractio:20110322

再訪。


この本、[daisensei] 大活躍ね。

  • 今田高俊「リスク社会への視点」
    • I リスクと共に生きる
    • II 生活の質とリスク
    • III リスク応答的社会へ
  • 山田昌弘「家族のリスク化」
  • 佐藤 学「リスク社会の中の教育」
  • 美馬達哉「「リスクの医学」の誕生──変容を強いられる身体」
    • I リスクを見る眼──心肺蘇生を再考する
      • 心肺蘇生の医学的意味と社会的意味
      • 社会的構築物としてのリスク
    • II 「リスクの医学」の誕生
      • リスク化される身体
      • 病因論からみたリスクの医学
    • III メタボリックシンドロームという神話?
    • IV 健康増進というリスク管理の問題点
    • V 今後の課題
  • 山口節郎「情報化とリスク」
    • I はじめに
    • II ポスト・パノプティコン
    • III 情報化とリスク──民主主義への脅威
    • IV 結びに代えて
  • 小松丈晃「リスク社会と信頼」
    • I リスク社会という見方
    • II 現代型リスクからの問い
    • III リスクと信頼
    • IV リスクとのつきあい方
  • 吉川肇子「リスク・コミュニケーション」
    • I リスク・コミュニケーションとは何か
    • II なぜ必要か
    • III 理念と問題
    • IV リスク・コミュニケーションの領域
    • V 心理学の貢献
    • VI マスメディアの影響
    • VII リスク・コミュニケーションのこれから
今田論考

語用メモ。

  • リスク(risk)とは、一般的に、人が何かを行った場合、その行為にともなって(あるいは行為しないことによって)将来こうむる損害(damage)の可能性を意味する。
  • 地震・風水害・暴風などの自然現象によって起こる天災(natural disaster)や思わぬ事故など、自分自身のコントロールがおよばない損害は危険(danger)と呼ばれる

のに対し、リスクは何らかの意思決定(人為的な企て)から帰結する損害を意味する。[…]

  • 危機(crisis)は 危険が現実化することが確実になった、ないし現実に発生した場合を指し、生命や組織の存立基盤に否定的な影響を与える恐れがある事態をいう。 [p.3-4]
  • 謎1: どうして こんなに多様な現象が たったひとつの言葉で表されているのか。
  • 謎2: あまりにも多様なものが たったひとつの言葉で表現されているときに、それが もっともなものにみえる理由とはなにか。
山口論考

ラプトン(1999)によるリスクの主要カテゴリー [p.82]:

  • 環境リスク
  • 生活様式のリスク(食料、消費生活、性行動、車の運転、ストレスなどにかかわるリスク)
  • 医療リスク
  • 人間関係リスク
  • 経済的リスク
  • 犯罪関連リスク

支那の百科事典」的な何か。

市民社会」は、いまのところ記述的概念というよりは規範的概念の性格が強く、いわばユートピアにとどまっている。[p.91]

せんせー。そのまえに それ、歴史的概念でーす。

吉川論考
営業マン向けの本とかに書いてあるのと似たような記載が多数あっておもしろい。
google:両面提示 とかね。
社会心理学の裾野は広いな。


■ I 「リスクコミュニケーションとは何か」 ナショナル・リサーチ・カウンシルの議論の紹介(1989)。

  • リスクコミュニケーションの定義
    • 「個人、機関、集団間での情報や意見のやりとりの相互作用的過程」
      • 1. リスクの性質についての様々なメッセージ(リスク・メッセージ)が含まれる。
      • 2. リスク・メッセージに対する、またはリスク管理のための法律や制度の整備に対する、関心・意見、および反応を表現するメッセージが含まれる。
  • リスクの定義: 「ハザード(hazard:被害の重大性)×その生起確率: ハザードの期待値」
微妙な表現だなこれ。
  • ハザードの定義: 「人や物に対して、害(harm)を与える可能性がある行為ないしは現象」

なんかおかしい気がする。


続いてそれに対するEUの反応。この議論もなんか転倒したもののように感じる:

このリスク概念をめぐっては、近年特にEU諸国を中心に議論が活発になってきていることには注意を要する(…)。すなわち、上記の定義を厳密に適用するならば、ハザードと生起確率が定量的にわかっていなければリスクとして査定できないということになり、それはどちらか一方でもわからなければリスクとして取り扱わないことを意味する。しかしそれでは社会が直面している現代的な問題を扱えない。[…]/  そこで、たとえハザードや被害の程度、生起確率が未定であり、定量的に表現できないものであっても、狭義の「リスク」とは区別しながらも講義ではリスクとして捉える見方は、一定の支持を得ているように思われる。

ヨーロッパ環境庁のこのレポートでは、

  • ハザードと確率がわかるものにはリスク(risk)
  • ハザードは同定できるが確率が未確定なものは不確実性(uncertainty)
  • ハザードも確率も未定なものは無知(ignorance)

と、用語を使い分けつつ、不確実性も無知も広い意味でのリスク概念に含めている。[p.130]

なんで「害(harm)には、その期待値を言えるものと言えないものがある」という話の順番にならないのかな。

この議論は、おおまかには、「ある出来事によって引き起こされる harmの大きさその生起確率」について述べているように読める。
もしそうなら、 hazard と risk はそれぞれ ただの縮約表現だということになる。
ところがこの読みは、上掲「リスクの定義」ならびに「ハザードの定義」に抵触する。
・・・というわけで、議論のどこかがヘンである気がするのだがどうか。
「リスクの定義」も「ハザードの定義」もあやしい。あと、「害」と「被害」という言葉の間で曖昧さが生じているような気もする。


II 「なぜ必要か」

  • リスク問題の顕在化
    • リスク査定、リスク管理
    • 専門家と非専門家のリスク認知の齟齬: →「どうすれば人々にリスクを理解してもらえるのか」というコミュニケーション技術への関心へ
  • 専門家に対する認識の変化


III 「理念と問題」

  • リスクコミュニケーションの4つの義務


IV 「リスク・コミュニケーションの領域」

  • ナショナル・リサーチ・カウンシルによる領域分類:
    • 1) public debate: リスクに関わり合う人が、関連のある問題や行動についての理解の水準を上げ、利用できる知識の範囲内で適切に知らされていると満足できるかどうか。
      • a 高度な科学技術、b 環境問題
    • 2) personal choice: 個人がリスクについての情報を知らされたうえで、リスク回避行動をとるかどうか。リスクを少なくできるような解を選択できるような情報を提供できるかどうか。
      • c 消費生活用製品、d 健康・医療問題、e 災害(自然災害、科学技術の事故)


V 「心理学の貢献」

  • p.138 リスク認知を高めるもの(ベネット 1999)11種!: 「重大性」と「確率」──専門家がリスク査定につかうもの──以外の、リスク判断に使われるものたち
  • 異文化に属する専門家同士の見解の齟齬、所属社会集団によるリスク認知の違い
    • →「欠陥モデル deficit model」
  • 説得、手続き的公正、参加
    このへんは よく営業マニュアル本でみかける話。

 参加の機会があることは、一般の人々のリスク認知を低くする効果があることを指摘する研究者もある(Frewer et al., 2002)。彼女らは、遺伝子組み換え食品についてのリスク認知を調査し、女性や教育レベルの低い人々のリスク認知が高いのは、これらの人々が、社会的にリスク管理に関する意思決定に参加する機会がなかったためであると解釈している。[p.143]

どーん!


VI 「マスメディアの影響」

マス・メディアがリスクばかりを報道するというのもおそらく真実ではない。リスク報道について報道内容や報道量を分析したフロイデンバーグらは、メディアはリスクを誇張し、「反科学技術」の態度を示すというリスク専門家コミュニティの見解は、データからは支持されないことを明らかにしている(Freudenburg et al., 1996)。[p.143]

美馬論考

■I リスクを見る眼──心肺蘇生を再考する
■■社会的構築物としてのリスク

メアリ・ダグラス(1983)。

リスクは、

  • 未来に関する知識と
  • もっとも望ましい見通しとは何かに関する合意と

の結合産物とみなされなければならない。

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