フィリップ・ベナール(→1988)『デュルケムと女性、あるいは未完の『自殺論』』

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日本独自編纂論文集。

デュルケムと女性、あるいは未完の『自殺論』 アノミー概念の形成と転変

デュルケムと女性、あるいは未完の『自殺論』 アノミー概念の形成と転変

  • 第1章 デュルケムと女性、あるいは未完の『自殺論』(1973)
    • I 女性の自殺:〈社会的原因〉と〈有機体的原因〉
    • II 中間点から力の均衡へ
      • U字曲線のモデル
      • 変数・タイプ・流れ
    • III 宿命論的自殺
    • IV 自殺に対する結婚と家族の影響:計算の誤りと方法の誤り
    • V 年齢・性・身分・下位文化などの影響の相互作用
    • VI 遅ればせのあとがき:「相互の同意にもとづく離婚」
  • 第2章 デュルケムの知的軌跡におけるアノミー(1982)
  • 第3章 アノミー研究におけるマートン(1978)
  • 第4章 自殺の社会学におけるアノミーの運命(1983)
    • I 煉獄のなかへ追いやられた『自殺論』
    • II 経済サイクルと自殺
    • III 自殺の社会的トポグラフィー
    • IV 社会移動と自殺
    • V アノミーから宿命論へ
    • VI アノミーの苦悩
    • VII アノミー概念の使用の伝統とその総括
  • 第5章 『自殺論』の読まれ方──デュルケム理論における「統合」と「拘束」(1984
    • I 自殺類型の分類の再構成
    • II アノミーと自己本位主義
  • 第6章 反デュルケム主義か前デュルケム主義か──自殺の公式の諸統計に関する議論への寄与(1976)

第2章「デュルケムの知的軌跡におけるアノミー」(1982)

『自殺論』でもっとも丁寧に検討されているのは「自己本位型」なのに、なぜか「アノミー型」を重視する人たちがいるね、という話。

第3章「アノミー研究におけるマートン」(1978)

II 整合でかつ未完成なタイポロジー
  • 94 マートンの当初のプログラムは、[1] アノミー的文化に対する多様な適応の形態を、[2] 社会構造上の諸個人の位置 のうちで探求することであったはずである。
    が、実際にはそうしていない。という批判。
  • 97 マートンは二つの点で失敗している。
    • 1. アノミー的文化への適応の類型論を構築すること
    • 2. 逸脱行動へと促す圧力の起源を社会学的に局在化する(社会構造における位置と関係づけて把握する)こと
III 捉えがたいアノミー
  • 99 アノミーには三つの用法がある
    • 1 アノミーは、儀礼主義型と対象をなす、文化構造に内在するある種のタイプの不均衡と同一視されている。
    • 2 個人的適応様式が扱われるなかで、アノミーは合法的手段の獲得上の制約と組み合わされ、文化構造の内面化様式に内在する矛盾に結び付けられている。
    • 3 アノミーは、成功という目標への文化的価値づけとその目標達成を可能にする手段の欠如との間の矛盾の結果として示される。
  • 100 もっとも普及した手短なバージョンでは、マートンの議論は、
    「非行行動は、社会的成功の手段を手に入れることの困難な不利な立場にある社会階層の中で最も生じがちである」
    と要約される。しかし、ここには「アノミー」は存在しておらず、しかも不要なのである。
  • 101 1955年の「青年非行に関する討論集会」では、社会構造と文化構造の区別を強調しようとしている。
    • 文化構造:「特定の社会ないし集団の成員に共通な行動を支配する規範的価値の組織体」
    • 社会構造:「社会または集団の成員がさまざまな仕方でかかわりあう社会関係の組織体」
-IV デュルケムのアノミーからマートンアノミー

123

  • デュルケームは:可能なものの地平が開かれているのに、自分のなすべきことが分からない諸個人について論じている
  • マートンは:到達すべき目標ははっきりしているが、そのアスピレーションは成功の可能性を閉ざす状況と出会っている行為者を想定している

125-126

  • デュルケムの謂うアノミーは──目標の到達可能性によってではなく──目標を決定できないことから生じる。
  • 欲望が障壁と衝突する状況に対して、デュルケムは「宿命論」という名を与えている。

127-128 結論

 このように見てくるなら、アノミーという語の今日の用法が、多くの経験的研究のもとでは、心理的アノミーないし無規範状態(normlessness)と、宿命論にごく近い無力感(powerlessness)との、明らかにその本性の反対なものの結合というものであることが、よく理解できるであろう。さらにまた、この観念の適宜する場合、いつでも支配している混乱状態についても、よく理解できよう。多くの影響を与える犯罪研究の伝統としてのマートン理論は、アノミーをその反対のものと同一視させるこの動向のなかで決定的な段階をなしているその分だけ、この混乱に対しても大きな責任がある。マートンはこの意味内容の大きな逆転にきわめて有力に働いているだけでなく、かれ自身をデュルケムとの関係においてはっきり位置づけを行わなかったゆえに、その逆転を隠蔽し、自らを正当化したのでもある。こうして、ひとつの逆説について結論を下すところに導かれる。すなわち、マートン社会学文献のなかでアノミーの運命を決定的な仕方で方向転換させるという力業に成功するが、この概念を真に定義することも行わなかったし、かれの議論にとってこの概念がなにゆえに有用であるのかも示さなかったのである。