イヴ・K・セジウィック(1985→2001)『男同士の絆:イギリス文学とホモソーシャルな欲望』

取り上げられている作品

文献

内容

序 章
第1章 ジェンダーの非対称性と性愛の三角形
第2章 恋する白鳥 —— シェイクスピアソネット集』の例
第3章 『田舎女房』
  • [076]「この劇に「男性性の解剖モデル」というピッタリの呼び名をつけて論文を発表したのはデイヴイッド・ヴイースだが、私はもう一歩踏み込んで、この劇は、男が他の男と満足のいく関係を結ぼうとして辿る道を数種類にわたって分析したものである、と主張したい。」
    「相手を寝とられ男にする絆は、「寝とる」側が「寝とられる」側に対して明らかに優位にあるため必ず階層構造をなしており、その点で、少なくとも一部の同性愛の社会的形態とは異なる。最も特徴的なことに、力の差は知の差として現れる。」
  • [077] 「レヴィ=ストロースが言うように、女性は、記号であって記号以外の何ものでもないものには決してなりえない。なぜなら、たとえ男の世界にいようと女性はまさにひとりの人格であり、女性が記号として定義されている限り、彼女は記号の産出者でもあるからである。」
  • [090] 「女性が交換の象徴的対象としてもっている裂け目のうち、大きなほうの裂け目──広く取り引きされるか、それとも個人所有されるかという裂け目」
    小さい方はどこですか
第4章 『センチメンタル・ジャーニー
  • 本章のテーマは階級と家族の関係です
  • [103] 「それは精神分析そのものに似ており、言い換えれば、赤ん坊の顔をした帝国主義と言えよう。」
    いつか使う。
  • [112] 「私の知人が旅していわく、日本でよく見かける英語入りTシャツ…の中で群を抜いて人気があるのはひとこと「セクシュアリズム」と書いたものだという。性的欲望を文字として物象化し、移動性やコスモポリタニズムを獲得するためにそれとなく使うこの方法はスターンの作品に見られる戦略に近い。」
  • [125] 次の章ではゴシック小説を扱います。
    「『センチメンタル・ジャーニー』以降、真ん中の項の女性を単純に省いたらどうなるか──魅力的かつ危険な選択肢──が、文学にとってはっきりとした、実に強迫的な主題となり、それに附随するかたちで、セクシュアリティホモソーシャルな絆に対するもっと緊密に組織化された、もっとあからさまに禁止的な態度が現れ始める。私がここで言わんとしているのは、イギリスのゴシック文学のことである。このドラマを家族の場に描こうとする動きはスターンにも潜在していたが、それがはっきり描かれることになるのがゴシック文学なのである。」
第5章 ゴシック小説に向けて

機能主義的社会記述の批判をおこなっている。

  • アラン・ブレイ『同性愛の社会史―イギリス・ルネサンスISBN:4779170044 彩流社
  • ジェフリー・ウィークス『われら勝ち得し世界―セクシュアリティの歴史と親密性の倫理』弘文堂
  • [136] 「だが繰り返しておくが、私たちが説明しようとしているのは機能ではなく、潜在的な力が生成される場ないしメカニズムなのである。」
    繰り返してもダメだよ。
  • [137] 「つねにすでに」登場箇所。
  • [138] 「19世紀および20世紀のヨーロッパ文化においては、男性のホモソーシャル連続体はホモフォビアによって切断され操られるようになったが、本章と次章では、ゴシック小説をこうした現象が描かれた重要な場と位置づけることにする。」
  • [138] 「なぜ中産階級の思春期の若者がデカダンスに魅了されるかは明らかで、デカダンス文学こそ秘められた大人の真実への近道だからである。たとえば性の秘めごとは、デカダンス文学では公の慣習に反するもの(最も露骨なケースは近親相姦やレイプ)によって表象される。そしてこれと密接に結びついたかたちで、階級の秘密はブルジョワジーの批判分子たちによって、つまリブルジョワの生産的な様式から訣別し、時代遅れとなったはずの貴族階級の価値観を口にして、自身の公認文化に批判的立場をとる──可能なやり方で文化に梃子の力を加える──人々によって表象されるのである。」
  • [138] 「たとえばゴシック小説は、中産階級と上流階級が接近した点を、産業革命という歴史的枠組みの中で執拗に描いている。また二世紀にわたって、顕在化した女性作家および女性読者がゴシック文学の発展に寄与したという歴史があることから、ゴシック小説は、女性についての──家父長制支配の形態が変わるにつれて、女性の地位がどのように変わっていったかに関する──有益な研究資料としても用いられている。これに比べればあまり目だたないけれども、「デカダンス」という世評と関係して、次のような点も指摘できるだろう。同性愛の様式が──いや、それだけでなく、同性愛の可視性および明別性さえも──、ジェンダー・階級の格差や緊張を表した時代にあって、ゴシックは男性同性愛と比較的はっきりと密接に結びついた、イギリスにおける最初の小説だったのである。」
  • [138] 「さらに、ゴシックに関してもうひとつよく知られていることは、ゴシック小説が、個人や家族の心理を特権化して提示していると考えられることであろう。なるほどゴシック小説の中ではエディプス・ファミリーの特徴が絶えず前景化されており、たとえば、放埒と禁欲の絶対化、近親相姦の可能性への拘泥、性行為の執拗な禁止、世代間を支配する暴力的な雰囲気などが執拗にモチーフ化されている。そのため、エディプス・ファミリーの超歴史性を認めない者でさえも、ゴシック小説を読めば、ブルジョワ社会においてエディプス・ファミリーが規範として強化されていった状況や条件はよくわかるだろう。実際、フロイトの著作のいたるところにゴシック小説の痕跡が見受けられ、それは「不気味なもの」や「夢と妄想」などの文学研究に限らない。ゴシック小説を説明する道具として、精神分析という、ゴシックから多くの隠喩を借用した学問が利用されたとしても、それは両者が循環していることの証差であれ、驚くにはあたらないだろう。」
  • [140] ゴシック小説の古典とサブグループ
第6章 代行された殺人 ——『義とされた罪人の手記と告白』
第7章 テニスンの『王女』 —— 七人兄弟にひとりの花嫁
第8章 『アダム・ビード』と『ヘンリー・エズモンド』 —— ホモソーシャルな欲望と女性の歴史性
第9章 ホモフォビア女性嫌悪・資本 ——『我らが共通の友』の例
第10章 後門から階段を上って ——『エドウィン・ドルードの謎』と帝国のホモフォビア
訳者あとがき
  • セジウィックは、レヴィ=ストロースの「女性の交換」論──婚姻は、複数の男性集団の間で成立するものであり、女性は交換される物のひとつにすぎない──を、フェミニズムの視点から捉え返し、女性の交換こそ、体制を支えるシステムであるとする。」