紀伊國屋書店ブックフェア:実践学探訪―〈概念分析の社会学〉からはじめる書棚散策

紀伊國屋書店新宿本店さんと勁草書房さんにご協力いただき、上掲タイトルでブックフェアを開催していただくことになりました。
本店三階の人文書コーナーにて3月17日スタートです。期間はひと月ほど。

フェア開催中の3月21日(金祝)にはエスノメソドロジー・会話分析研究会の例会が東海大学高輪校舎にて開催されますので、これに併せてついでに新宿にも立ち寄るのが通と言えましょう。

フェアの趣旨・選書の方針は──「エスノメソドロジーの紹介」ではなくて──、

  • 「ハイブリッド・スタディーズ」を標榜するエスノメソドロジストたちの研究方針と成果を、
    ジャンルに拘らない書棚散策をするために利用しよう

というところに設定して、読書人のためのブックリストとすることを目指しました。

まぁ要するに、私自身がふだんから日々やっていることのおすそ分け、ですが。


趣旨文を紹介すると:

そこで何が行われているのか/それは如何にして可能なのか[★]。  ──社会学の一流儀であるエスノメソドロジー(EM)は、このシンプルな問いを丁寧に跡づけていこうとするものです。
 一方でエスノメソドロジーは、研究者がその都度注目している場面において、そこに参加している人たちがどのように──他の局面でも使えるだろう一般的な仕掛けを/しかしその場特有の事情に合わせて用いながら──お互いの行為や活動を編みあげていくかを捉えよう[●]とします(これは、なるべく多数の現象・行為・活動に当てはまる──という意味で一般的な──知見の獲得を目指そうとする通常の社会科学の流儀とはずいぶんと違います)。
 他方でエスノメソドロジーは、取り組んでいる課題★と方針●のシンプルさゆえに、多様な現象に広くアクセスしていける普遍性と柔軟性を持っています(そのせいで書店ではいろんな棚に散らばって置かれてしまうことにもなるのですが。このリストでは狭い意味でEMに属すると判断した書籍には先頭に◎を付けました)。
 エスノメソドロジーのこの特徴は書籍ハンターたちにも利用していただけるはずです。つまりエスノメソドロジーの様々な研究を手がかりにすることで それが属する本棚にある他の書籍と比較しつつ違いを読むとともに、方針●に乗っかりながら別の本棚にもアクセスしていける、という様に。
 このブックリストは、そうした書店フロア散策のやり方を提案するために作成したものです。


この趣旨に応じていただいた8名(+わたくし)で書籍選択と紹介解説文執筆をおこないました。選書リストの構成と担当者は次のとおり:

1 概念分析の社会学
  • 1-1 実践の論理を探る社会学 (酒井泰斗)
  • 1-2 実践の論理と日常言語学派の哲学 (前田泰樹)
  • 1-3 フーコーとハッキング:実践の可能性条件としての概念空間の探究 (浦野 茂)
2 エスノメソドロジー・会話分析入門
3 エスノメソドロジーの展開とその周辺
  • 3-1 研究の進め方
    • 3-1-01 エスノメソドロジストはフィールドで何をしているのか? (秋谷直矩)
4 源泉とその他
  • 4-1 古典と源泉 (酒井泰斗)
  • 4-2 ルーマン:概念史の成果を援用した社会的諸システムの研究 (酒井泰斗)
  • 3-2 研究領域や研究主題
    • 3-2-01 法 (小宮友根)
    • 3-2-02 科学的知識の生産 (中村和生)
    • 3-2-03 心理学と社会 (浦野 茂)
    • 3-2-04 精神障害 (浦野 茂)
    • 3-2-05 医療と看護 (前田泰樹)
    • 3-2-06 認知科学と情報処理モデル (秋谷直矩)
    • 3-2-07 情報機器と道具のデザイン (秋谷直矩)
    • 3-2-08 学習の社会性1:心理学の展開 (五十嵐素子)
    • 3-2-09 学習の社会性2:研究の広がり (五十嵐素子)
    • 3-2-10 ジェンダー (小宮友根)
    • 3-2-11 不平等の再生産 (森 一平)
    • 3-2-12 経験と物語り (浦野 茂)
    • 3-2-13 ラベリング論・社会的構築主義エスノメソドロジー (中河伸俊)
    • 3-2-14 エスノグラフィーとエスノメソドロジー (秋谷直矩)

そのうち実際に店頭に並ぶ(〜絶版と外国語の書籍以外の)書籍のリスト(のみ)が紀伊國屋書店さんのウェブサイトにて公開されております。
開催中にぜひ店頭に足をお運びいただき、パンフレットを手にしていただければと思います。

追記

はてなブックマークツイッターにて、うえしんさん( [twitter:@ueshinzz] / b:id:ueshin)から「エスノメソドロジーの範疇を広げすぎ」とのコメントをいただきましたので、すこし追記的解説を。
 「広げすぎ」だと言われているのは、タイトルであるかリスト内容であるかのどちらかであろうかと思いますので、以下二方向でお応えします。

リスト内容であった場合

 リストされている書籍に、エスノメソドロジーに属するとは言えない書籍が多すぎる、と言われているのかもしれません。この場合、

なにしろタイトルは「エスノメソドロジーから【はじめる】」にしましたし、趣旨文にも エスノメソドロジー以外の書籍を載せている理由を記しましたので

タイトルと趣旨文を読まずにブクマされたのではないかな、という気もします。

タイトルであった場合

フェアのタイトルは、

という等号を述べていますが、これが「広げすぎ」だと言われているのかもしれません。このうち、まず

の部分について言うと、これはハロルド・ガーフィンケル自身がしばしば行った言い換えですので*、こちらの方はよいでしょう。

* たとえば『エスノメソドロジー―社会学的思考の解体』を参照。最近だと、ガーフィンケルの教え子であるマイケル・リンチの著作の章題にもこの語が登場しています:『エスノメソドロジーと科学実践の社会学』。
もう少し正確にいうと、「実践学 praxeology」という語自体は、エスノメソドロジー登場以前からすでに在った言葉であり、エスノメソドロジーは その具体化を目指した一つの研究運動である、と述べるべきところかもしれません。(実践学⊃エスノメソドロジー

次に、

の部分について言うと、「概念分析の社会学」というのは、このタイトルがついた論文集を作った時に──エスノメソドロジーという語を、この語を使わずに表現するフレーズが欲しくて──私たちが作ったものです。この消息については、フェアの解説文の冒頭に置かれた私の解説文を引用して釈明に代えさせていただきましょう:

セクション1: 概念分析の社会学

1-1 実践の論理を探る社会学

論文集(4) のタイトルは、扉に記した方針●に より抽象度の高い表現を与えたくて作ったものである。それは

    • 〈或る実践(〜行為や活動)は どのような分節化のもとで生じえているのか〉という問い★に
      概念連関の分析を介して接近することにより[←概念分析]、
    • 実践の記述的解明を遂行する[←社会学

という方針を述べている。この抽象化は三つの理由により必要だった:

  • A EMの古典的な仕事、それらが参考にしたもの(→1-2「実践の論理と日常言語学派の哲学」)、そしてこの論文集の直接の先行研究である (1) (2) (3) といった仕事の間の連続性を簡潔に示すこと。
  • B 一見すると雑多にみえる現象・主題(人種、ポルノグラフィや化粧などなど)に対して、どの論文も同じ方針のもとでアクセスしようとしていることを述べること。
  • C EM以外の仕事を参考にした際のアクセスポイントを示すこと。

この論文集と重なる時期におなじ方針のもとで進められた仕事には、(4) (5) (6) がある。
C については 1-3「フーコーとハッキング:実践の可能性条件としての概念空間の探究」で紹介する。 (酒井)