注21:ジェームス・スコット(1976→1999)『モーラル・エコノミー―東南アジアの農民叛乱と生存維持』

『社会の経済』第六章「稀少性」参照文献


モーラル・エコノミー―東南アジアの農民叛乱と生存維持

モーラル・エコノミー―東南アジアの農民叛乱と生存維持

  • まえがき
  • 序章
  • 第1章 生存維持倫理の経済学と社会学
    • 1. 「安全第一」:生存維持の経済学
    • 2. 生存維持倫理の社会学
    • 3. 農民社会の危険分散
    • 4. モーラルな養成としての生存維持
  • 第2章 農民の選択と価値のなかの生存維持保障
    • 1. リスクと階層
    • 2. リスクに対する村内の保険
    • 3. 小作制と分益小作関係のリスク
    • 4. リスクと国家
  • 第3章 危険の分散と植民地体制の変化
    • 1. 市場にもとづく不安定性
    • 2. 村落の保護機能の弱化
    • 3. 副次的生存資源の減少
    • 4. 農村階級関係の悪化
    • 5. 農村変化と世界経済
  • 第4章 取り立て者としての国家
  • 第5章 恐慌下の叛乱
    • 1. コーチシナ:「赤色恐怖時代」
    • 2. ゲアンとハティンのソビエト
    • 3. 叛乱の成り行き
    • 4. 下ビルマ:サヤーサン叛乱
  • 第6章 搾取分析の含意:正義としての互酬性と生存維持
    • 1. 搾取の標準
    • 2. モーラル問題としての搾取
    • 3. 互酬性と交換バランス
    • 4. 基本的社会権利としての生存維持
    • 5. 安定的交換の伝統と不履行
    • 6. 階層化・義務・権利
  • 第7章 叛乱・生き残り・抑圧
    • 1. 叛乱の構造的文脈
    • 2. 叛乱と農民の社会構造
    • 3. 無叛乱・自助または「各自避難」
    • 4. 無叛乱:抑圧と虚偽意識の問題
  • 日本語版へのことば
  • 訳者あとがき

第1章 生存維持倫理の経済学と社会学
  • [18] 報酬のよくない農耕や手工芸に労働を割り当て続けるのは、
    • (農外の雇用機会が乏しい)農民にとっては: 労働の機会費用が低いから。
    • 生存ぎりぎりのところにいる人にとっては: 所得の限界効用が高いから。
      • →農民は、労働の限界生産性がゼロになるまで、自分の労働を注ぎ込み続ける。
  • [23] 農民が求めているのは、「労働に対してもっとも多くの、かつ、もっとも安定的な報酬をもたらす」ような作物と栽培技術である。
    〈多く〉と〈安定的な〉が矛盾する場合には、生存限界近くにいる農民は、通常、危険のより少ない作物と技術を選好する。
  • 注46 アントン・メンガー労働全収権史論 (1971年)未来社
  • [33]「農民の爆発的反抗を引き起こすのは、豊作の年の40%の小作料ではなく、不作の年の20%の小作料である」
    「農民の判断基準となるのは、外部からの取り立てそれ自体ではなく、その取り立てを受け入れたあとに残るものが、自分たちの基本的な必要を満たしうるかどうかなのである。」
第3章 危険の分散と植民地体制の変化

三章で地主による取り立て、四章で国家による取り立てを論じます。

79 ビルマ

昔、自給のために耕していた頃、農民は屋根葺き用の草・竹・薪などを共有地からただで集めてくることができた。近所の池沼や小川で魚を捕ることができたし、自分の家で布を織ることもできた。共有の荒地が耕地に変わり、魚捕り場は国有財産と宣言され、自宅での織物は利益にならなくなった。小作農など財産の少ないものは、必要な品々を自分で調達することができなくなり、金を手に入れなくてはならなくなった。