お買いもの:松永伸太朗・園田薫・中川宗人編(2022)『21世紀の産業・労働社会学:「働く人間」へのアプローチ』

尾高邦雄読書会の対象文献

  • 序 章 「働くこと」の社会学を再考する 産業・労働社会学の21世紀的展開と展望(松永 伸太朗・中川 宗人・園田 薫)
第1部 企業と労働市場
  • 第1部 イントロダクション 働く場の境界,構造,変容に迫る(中川 宗人)
  • 第1章 企業データの計量分析からみる新卒採用のジェンダー不平等 WLB施策と企業の経営状況との関連から(吉田 航)
  • 第2章 外国人を採用する日本企業の説明と認識 社会の論理と企業の論理の交差点(園田 薫)
  • 第3章 経営モデルの企業組織への導入 1940~60年代における「人間関係論」を対象として(中川 宗人)
  • 第4章 企業と地域の結節点としての「企業内コミュニティ」 日立製作所における自衛消防隊の三つの機能(長谷部 弘道)
  • 第5章 組織境界の複数性 組織は多様な活動をどのように可能にしているのか(樋口 あゆみ)

第2部 労働者と労働現場
  • 第2部 イントロダクション 「労働者であること」とはいかなることか?(松永 伸太朗)
  • 第6章 教育システムと労働市場のリンケージ 日本の職業教育の強さに関する社会階層研究からのアプローチ(小川 和孝)
  • 第7章 日本的な働き方と対峙する大学生 就職活動過程の検討を通じて(妹尾 麻美)
  • 第8章 不妊治療と仕事の両立の葛藤をめぐる計量テキスト分析 職種の違いに着目して(寺澤 さやか)
  • 第9章 新型コロナウィルス感染症の影響下における年休取得行動 コロナ禍で実施したアンケート調査の計量テキスト分析から(井草 剛)
  • 第10章 日本の外国人労働者問題 単純労働力としての留学生労働者を中心に(朴 知遠)
  • 第11章 労働時間の弾力化と「リズムの専門性」 フリーランス労働における無収入リスクへの対処を事例として(松永 伸太朗)

第3部 企業・労働市場と労働者をめぐる理論と学説
  • 第3部 イントロダクション 社会学はいかに「働くこと」を捉えるのか(園田 薫)
  • 第12章 日本の産業・労働社会学の学説史的反省 経済現象を捉える領域社会学との関係性に着目して(園田 薫)
  • 第13章 「当事者の論理」を記述するとはいかなることか マイケル・ブラウォイの同意生産論のエスノメソドロジー的再考(松永 伸太朗)
  • 第14章 失業が作る近代 戦中・戦後日本の社会政策思想はなぜ西洋由来の失業概念を用いたのか(西田 尚輝)
  • 第15章 「新しい社会運動」論と労働運動論 労働運動の質的転換と社会運動論的変数の検討(中根 多惠)
  • 終 章 21世紀の産業・労働社会学の構想に向けて 領域社会学における境界認識の転換とプラットフォーム化(園田 薫・中川 宗人・松永 伸太朗)
  • 事項索引
  • 人名索引

序 章 「働くこと」の社会学を再考する

p. 7 引用文(尾高邦雄 1963)と、その下の著者たちによる敷衍の内容が対応していないのではないか。

  • 引用文: 機構や仕組や、またその外側にある自然的・文化的な環境、歴史・社会的な情勢なども、それの研究対象の範囲に入るが、しかし社会学にとっては、これらのものが集団を構成する人々にとってどんな意味をもつか、いかに彼らの行動や態度を制約し、また逆に彼らの意欲や行動によっていかに改変されていくかが問題なのであって、これらのものそれ自体の内容や性格が問題なのではない。いいかえれば、社会学にとっては、集団を構成している人間の日常の生活実相や生活感情が興味の関心なのである。このような社会学的視点の特質を、われわれは〈人間遡及的〉あるいは〈生活遡及的〉と呼ぶことができる。」
  • 敷衍: 「つまり人間遡及的視点とは、労働にかかわる行為や現象の背後にある人間の社会的な営みに考察を及ばせる態度のことを指す。」

引用文が論じているのは「機構や仕組など」であるのに対して、敷衍の方は「労働にかかわる行為や現象」という違うものについて述べている。また引用文の方は「機構や仕組など」から出発して〈人間や生活への遡及〉へと進むことに謎はないのに対して、敷衍の方は「労働にかかわる行為や現象」の背後に「人間の社会的な営み」があると述べており、こちらは見てすぐに意味がわかり同意できるような判明な主張ではないように思われる。