田中拓道(2008)「現代福祉国家理論の再検討」

一 はじめに

  • 出発点となる仮定。「福祉国家とは、資本主義の下で社会統合の維持を目的として展開される社会政策、労働政策、社会サービスなどの集積を指す。」

二 批判理論の系譜

  • 1960年代後半の国家導出論争(ミューラー、ノイジュース、アルトファーター、ヒルシュ):国家は総資本の利益に奉仕する制度だよ論が出発点
  • 問題:ブルジョワ民主主義的枠組みは、先進資本主義の諸要求や諸目的とどの程度ながく両立しつづけうるか
1 「構造」という隘路──ネオ・マルクス主義

ミリバンド/プーランツァス論争。

  • 「「構造」とは、前もって行為者の実践を規定する実体というよりも、個別紛争を通じてのみ現われる。」

こんなことを言ってみてなにが嬉しいのか。

2 システムと規範的正統性──ドイツ批判理論
(1) システムの「危機」
  • 1970年代初頭までのハーバーマス先生:
    • 資本主義に内在する階級対立を調停するために国家に過重な要請が課され、社会国家的介入が拡大することで、経済不況、財政危機が引き起こされる( 合理性の危機)。
    • 社会国家的介入は市民の自律的公共圏を脅かし、「正統性の危機」を引き起こす。
(2) 規範的正統化
①システム「危機」の不可能性
②規範的正統化の「危機」
③コミュニケーション理論
  • 1970年代なかば以降のハーバーマス先生:
    • 社会国家的介入が増大すると、生活世界は経済的利益や行政手続きに従属するようになる(「生活世界の植民地化」)。
    • 社会国家の拡大は、人びとを受動的で私生活中心の状態へと追いやることで、規範的水準における「正統化の危機」を生み出す。

危機とは、システム統合ではなく、社会統合の危機だ論。

3 実践と構造──フランスのフーコー主義

三 経験理論の系譜

1 「制度」の主題化

1980年代以降のアメリカ・北欧の政治経済学者たちについて。社会政策とは行政エリートによる民主化および労働運動への対応である論。

  • 批判の対象
    • 行動論:政策をインプットに対するアウトプットとして説明する。
    • 合理的選択論:政治的行動を個人的効用の最大化として説明する。
  • 制度論の主張
    • 制度はアクターの選好形成・行動戦略の療法にとって基本的であり、アクター間の相互調整機能を担うという意味で秩序維持にとって合理的である。
2 国家の自律性──アメリカにおける国家論の復活

スコチポル(1985)「国家論の復活」

  • 社会中心アプローチ:社会(利益集団の競合、資本主義構造など)からのインプットによって国家の政策アウトプットが決まるとみなす。政府は両者を媒介する機能を果たすにすぎず、自立したアクターではない。
  • 国家中心アプローチ:国家は独自の物理的・財政的・人的・資源を有する権力主体である。
3 制度と政治戦略──権力資源動員論

コルピ、エスピン=アンデルセン

  • 社会階級の利害を代表する政党が議会内でいかなる政治戦略を選択したかによって、社会政策・福祉国家のレジームの分岐を説明する。
4 制度の持続性──新制度論
5 制度変容と規範の回帰──制度論の今日的展開

四 おわりに