尾崎俊介(2019)「アメリカ自己啓発本出版史における3つの「カーネギー伝説」」

特集:自己啓発https://contractio.hateblo.jp/entry/20200804/p0

1. 最初のカーネギー

アンドリュー・カーネギー(1835-1919)について。

  • 40 「スコットランドの小村に住む貧しい手織工の家に生まれた。彼の一家はキリスト教カルヴァン派の勢力お強い子後に置いてその過酷な教義を嫌い、現世における人間の幸福を認める北欧の神学者エマニュエル・スウェーデンボルグ(1688-1772)の学説を熱烈に信奉する家柄であり、そのせいもあってカーネギーが13歳の時に「幸福の追求」を国の設立理念として謳う新興国アメリカに移住する。」
  • ・『フランクリン自伝』:身分制度の打破をともなう出世
    ・『カーネギー自伝』:起業のスリルと蓄財の喜び
  • フランクリンの場合は「勤勉・節約・節制」が問題だった。カーネギーにおいては、蓄財という反キリスト教的営為をどのように正当化できるかが問題となった。
    • 解:後で良い使い方をするなら金儲けも悪くない
    • 「金儲け=悪」という公式を突破するのは、カルヴァン主義の強かったアメリカでは難しかった。この突破を果たしたのがカーネギーの自伝だった。
    • それでも、当時の自己啓発書の主流は「勤勉」の方だった。ハバード『ガルシアへの手紙』、クレイン『バビロンの大富豪』
  • 44 「19世紀が終わりに近づく頃、アメリカ人の多くは企業に勤めるホワイトカラーになっていた。給料をもらって生活するサラリーマンにとって、「一代で莫大な財産を築く」という起業家の夢はあまりにも現実味が薄かったのだ。20世紀を生きる若い世代のアメリカ人にとって『カーネギー』自伝は遠い昔の伝説、古き良き時代の夢物語であって、もはや他人事に過ぎなかった。」

2. 二人目のカーネギー

デール・カーネギー(1888-1955)について。

  • 51 ニューソート応用心理学
    「また本書[カーネギー『人を動かす』]が、19世紀後半以降のアメリカに広まっていた「ニューソート」という思想的潮流、及び20世紀初頭に同じくアメリカで流行した「応用心理学」の影響を強く受け、ポジティヴなメンタリティーを維持し続けることの重要性を標榜していたことも明記しておかなければならない。特に1910年代から30年代にかけ、デールはウィリアム・ジェームズやアルフレッド・アドラーといった心理学者や、ハリー・A・オーバーストリート、ヘンリー・C・リンク、バッシュ・ヤング、アーサー・フランク・ペイン、ルイス・E・ビッシュといった応用心理学者たちの著作に読みふけり、また彼らと親しく交友することで、外交的でポジティブなパーソナリティこそ大恐慌後の厳しい時代を乗り切るために必要なものだという確信を強め、その確信を『人を動かす』の基本概念に据えたのだった。」

3. カーネギーと約束した男

ナポレオン・ヒル(1883-1970)について。

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 だが、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』には、その驚異的な売上に加えてもう一つ、驚愕のストーリーが付帯する。
 これはマット・ノヴァクというジャーナリストが「アメリカ一の詐欺師」という記事*の中で告発していることなのだが、それによるなんとナポレオンヒルは「成功哲学」の体系化の仕事をアンドリュー・カーネギーから依頼されたことはないというのだ。
 否、それどころではなく、そもそもヒルアンドリュー・カーネギーに面会したことすらないというのである。となれば当然、彼がヘンリー・フォードに会ったことはないだろうし、マハトマ・ガンディーに会ったこともないだろうし、ウッドロー・ウィルソン大統領の補佐官としてホワイトハウスで(無償で)働いたこともおそらくない、ということになる。… 要するに、ヒルが作り上げたカーネギーの「成功哲学」云々というのは、すべてヒルの自作自演なのだ。世紀のベストセラー『思考は現実化する』は、ある意味、稀代の詐欺師の著作だったのである。
* https://paleofuture.gizmodo.com/the-untold-story-of-napoleon-hill-the-greatest-self-he-1789385645

そこまで盛る~?!

61 まとめ

 以上のべてきたように、

それぞれ画期的な自己啓発本となった。