ルーマン『社会の科学』第三章「知識」

isbn:4588009273

  • I 
  • II 「知識」の特徴付け1: 〈認知的予期/規範的予期〉と学習
  • III 「知識」の特徴付け2: 〈体験/行為〉と因果帰属
  • VI 歴史的予備考察
  • V 「構成主義」のための予備的な議論: II&III 節の敷衍
  • VI 記録、記憶、知識伝達
  • VII 生活世界
  • VIII まとめ 
I
II [「知識」の特徴付け1: 〈認知的予期/規範的予期〉と学習]
  • p.122「われわれは、知識を 認知的に様式化された意味 kognitiv stilisierter Sinn と定義し、他方で、規範的に様式化された意味を法と呼びたい」
  • p.122「つまり知識は、かつて認知的予期を利用し、強調し、いまはその結果とともに再現勢化できる、無数のコミュニケーションの沈殿物である」
  • p.123 法と学の分化
III [「知識」の特徴付け2: 〈体験/行為〉と因果帰属]
  • 「真になりうる知識」の体験への還元と体験の匿名化
  • 予期のコミュニケーションにおける「(規範的ではなく)認知的であって、かつ、(行為ではなく)体験の結果」という観察のオリエンテーション
    • →この前提を用いた コミュニケーションへの立ち戻り: 「知識の伝達」はこのオリエンテーションのもとで観察される。
VI [歴史的予備考察]

「知識」概念の検討のために、前近代における知識について瞥見してみる。

  • 原初的な分化: 〈秘密の知識公開の知識〉、〈厳密な知識(エピステーメー)/憶説(ドクサ)〉
    • 認識の使命: 未知のことを既知のことに変換すること → 方法論の登場
    • 方法論の目標: 知識の維持・保全・発見、「いかにして誤りを避けるか」→誤りの原因の発見のための研究
  • cf. 「ルネサンス期の政治理論でもまだ、その重点を 領主が良き助言を受けていることに求めている」p.132
V [「構成主義」のための予備的な議論: II&III 節の敷衍]
  • 出発点 p.133: 「学習の用意としての認知」「構造変化の能力としての学習」
    • テーゼ p.135: 「われわれの出発点が教えてくれるのは、違背が起こったときにどのように(また場合によっては何を)学習すべきかを確定できる場合にのみ、知識が形成されうる、ということに過ぎない。」
      • p.135 「重要な予期を放棄できるのは、その予期を別の予期におきかえられる場合のみであり、そのかわりに 何が事実なのを確定出来る場合のみである。」
たとえばひとは、降雨術がうまくいかないのは因果関係の規定が正しくないからだ、ということを学習するわけではない。なぜなら、降雨術のかわりにどうやって雨を降らせるか、知ることができないからであり、それが問題なのである。たしかに降雨術も一種の知識にもとづいている。だがそれは、認知的/規範的という区別について未分化な知識であり、違反、過失、損傷、汚染などと関連している。だから降雨術の操作は雨を降らせると同時に、第一義的には規範に対する違反の贖いあるいは禊ぎに役立つ。それに必要な知識は、ものごとにはきっかけがあることを確認するだけである。[p.135]
  • p.136-137 問い: 「知識を規範から離れて確立することは、最も非蓋然的であるがゆえに最も困難であっただろう。」 このような非蓋然的なことが生じる社会文化的な相関物は何なのか。
VI [記録、記憶、知識伝達]
  • p .140 文字と印刷の登場によって変わったものはなにか: 記憶の構造
    • p.141「最も重要だと思われる構成の成果は、印刷術によって18世紀に普及した歴史の時間化である」
      「妥当性に時間の指標を与えさえすれば、妥当性どうしが両立できる」
VII [生活世界]
  • p.145「生活世界」: この概念の成立には、「世界──すなわち現勢的・同時的には主題化されない諸前提の総体が問題であるという考えがひとつの重要な契機となっている。その場合、あらゆる制約の主題化は、知識であれ、法であれ、主題化されない諸制約からなる生活世界の地平でつねに生じる、ということができる」
  • p.145「問題は、生活世界(とくに、主題化されることなく前提とされる知識を含む)と現実にもちいられている知識の関係の進化的な変化にある。この点で、科学の成立は大きな分かれ目となっている」
VIII
    • p.150 「(6) … 知識は、全体社会システムの内部で直接的、間接的な構造的カップリングの結果として生じるもの──知識による知識の圧縮と再認という回帰的過程で、絶え間ない刺激に抗して一定に保たれたり学習によってさらに発展されたりするもの──の、包括的な名称に過ぎない。」