ハッキング『何が社会的に構築されるのか?』:【懸案】グッドマン「帰納の新しい謎」からハッキング「Making up people」へ

昼食。何周なのかはもうわからない。

何が社会的に構成されるのか

何が社会的に構成されるのか


第5章 モットーは「多種多様」 [p.285]

「有意な 種類 relevant kind」と「種類の制作」

有意な種類

 [..] 私の「種類の制作」の考えは、グッドマンの世界制作の考えに何も付け加えていない。というのも、グッドマンは 種類・クラス・区分・タイプについて すでに多くを述べていたからである。1940年の彼の博士論文『性質の研究』(..*)は いくつかの基本的な種類に関するものである。その論文を動機付けている考えは、論理を超えた事柄に記号論理を適用するテクニックなしには、記号論理を必要とする問題はけっして明確で正確な解決をもたらさないであろう というものである。彼は、そこで、人間が行う研究の固有の対象は「種類」であるとする、論理についての初期の考え方に逆戻りし始めた。ではどんな種類か。有意な種類である。

私が「自然な」とは言わずに「有意な」というのは二つの理由にもとづく。

  • 第一に、「自然な」という言葉は、生物学で言う種類だけではなく、音楽作品、心理学実験、機械の型式のような人為的な種類をも含むには不適切である。
  • 第二に、ここで問題にしている種類はどちらかというと習慣的・伝統的なものであるか、あるいは、新しい目的のために考案されたものであるのに、「自然な」という言葉は、何か絶対的な範疇的ないし心理的優先性を示してしまう。[Goodman 1978, 10]

種類はグッドマン哲学の核である。彼の最初の完全に独創的な発見は、「帰納の新しい謎**」であった。個別事例に関する証拠を基礎になんらかの一般的な結論に到達する際、われわれは、同じ推論のルールを使いながら、しかし別の分類をすれば、反対の結論に到達することが可能である、ということをその論文は示している。[..]


 [..] グッドマンの「新しい謎」には一般的な解決は存在しない し、「新しい謎」の適用範囲は、機能や理性のほかの些細な機能をも超えて及ぶ***。われわれは多くの世界に住むことができ、現に住んでいるという彼の学説は、ある方面からは賞賛され、またある方面からは忌み嫌われるのであるが、「新しい謎」はこの学説を強めるのである。「新しい謎」は以下のような彼の変わることのない確信を支える。

進化する伝統に影響を受けながら 有意な種類を編成し選びなおす ことがなければ、

without the organization, the selection of relevant kinds, effected by evolving tradition

種類の編成が正しいとか間違っているとか、帰納推理が妥当であるとかないとか、サンプリングが公平であるとかないとか、サンプルに斉一性があるとかないとかそういったことは成り立たない。(Goodman 1978, 138-139**** [id:contractio:20071231])


 種類を選び編成する という考えには曖昧なところがある。それは個人がやれることなのか、本質的に社会的・集団的な事柄なのか。答えは両方である。

ほぼ個人的な選択と編成の例としては乳幼児突然死症候群がある。それは主に、少数の人によって選び出され編成されることによって、小児科がかかわる社会問題集の欠かせぬ構成要素となった。しかし、グッドマンは進化する伝統と言うのだから、もっと共同体的なものを考えていたにちがいない。とすれば、この選択と編成は いわゆる 社会的構成とかなり似ているにちがいない。 われわれが推理を行う前に、共同体には前もって分類が形作られているのがふつうである。もちろんそうした分類は常に新たに考案され変化していくが。

こうした種類の詮索と編成は、グッドマンによれば、われわれが世界と呼ぶものを決定する。[..]


 グッドマンの考察は ここまで はとてもよい。しかし、まさに世界制作に至るまで、グッドマンが言う見事なトリックの数々をわれわれはどのように行えばよいのか。つまり、いかにして 有意な種類を編成し選択 すればよいのか。あるいは自動詞を使って同じことを表現すれば、いかにしてそうした種類は存在するようになるのか。なるほどグッドマンは、「実践との合致」「進化する伝統による影響」と書く。しかしながら、彼は、実践や進化の具体的な相についてはほとんど何も語っていない。私は、ある種類が制作され形成され、最終的には世界を変える、その複雑な過程の一例を挙げて、このギャップを埋めていきたいと思う。


 種類の選択に関する一般理論はおそらくありえない。多くのタイプの種類があるのであって、このことはグッドマンが誰にもまして思い出させてくれる。とはいえ、... [p.279-282]

★課題:
「ここまで」以前と「しかし、」以下について、それぞれ簡単にまとめてみましょう。>俺



仕事の権利付け: ハッキング自身による「人間の制作」要約 [p.282-283]

[相互作用種]

  • 進化する伝統についての事例
  • 人間的であると同時に科学的

経験は再記述されるだけではない。経験は再び感じられるのである。

  • 日常的であると同時に専門的


ご金言

相互作用する種類は「人間の制作」に関わる。これは単純な話ではない。ある種類をある程度深く研究することによってのみ、、その種類がいかに作用するかが理解できる。そして、あるひとつの種類に関する研究は 他の多くの種類に光を当てるかもしれない。しかし、どんなにうまく事例を選んだとしても、それは、せいぜいあるグループの種類を理解するための手引きとして役立つに過ぎないであろう。すべての種類のモデルであることを目指すべきではない。モットーは「多種多様」である。[p.284-285]