ウェブ読書会 #wbook の次回検討対象は、小松本になるとの噂。
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ほかに山口『現代社会のゆらぎとリスク』なんてのもあったが、これも捨ててしまったなぁ。
小松本。2003年の著作。
序論における本書の構成の提示。p.21
- まずは、オートポイエティック・システム論を取り入れたルーマンの社会システム理論を本書なりに解釈しつつ、リスクと危険(またそれに相応した決定者/被影響者)という、日本のリスク論の中でもほぼ周知になりつつある区別に依拠するルーマンのリスク概念、ならびにその基本的視座を明確にしておこう(第1章)
- ついで、今日のエコロジー問題の背景の一つである「非知」の問題を取り上げ、知/非知の区別と並んで非知そのものの内容的な区別をも問題にすべきであることが主張される(第2章)。
- その後、まずは主として「決定者」の立場に立脚しつつ(第3章、第4章)、信頼の技法、リスク変換について論じ、
- 続いて、主として「被影響者」の立場に立脚しつつ(第5章)、ルーマンの社会システム理論の視角からする抗議運動について、また「包摂/排除」概念のリスク論にとっての含意について論じる。[21]
文献 | ||
序論 リスクの社会学の展開とルーマンのシステム論 |
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一はベック『危険社会』の紹介。
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第一部 システム論的リスク論 | ||
第一章 社会システム理論によるリスク研究──ルーマンの基礎視角 |
一:既存のポピュラーな(&ベックの)リスク概念の紹介。
二:〈危険/リスク〉区別の意味と意義。 三:「時間結合」概念の提示。それを使って、 四:「時間次元と社会次元の緊張関係をもたらすもの」という観点からの「規範」「希少性」「リスク」の比較。 | |
第二章 非知 |
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■「予防」。ベックの「非知」とルーマンの「非知」の違い。 二:ギデンズによるルーマン批判への反論[p.63-]。 三:〈特定化されない非知/特定化される非知〉。「ラブキャナル事件」を例に。 四:ベックによるルーマン批判(1988)への反論。
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第二部 決定者とリスク | ||
第三章 信頼 |
■「リスク・コミュニケーション」。「パブリック・アクセプタンス」。「説得の技法」。「信頼の調達」。 二:「伝統的なリスク」(ex.20世紀初頭ドイツにおける学生の決闘) と「新しいリスク」の対比。 | |
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- ルーマン『行政過失と信頼保護』(1963)、『公式組織』(1964)、『信頼』(1968/1973)
五:信頼を必要とする社会システムにおける環境構想と自己呈示。→ 第4章(システム合理性)へ。
- 一 システムによる問題転移──初期ルーマン理論を手がかりに
- 二 リスク変換の概念──ジャサノフの分析との関わりで
- 三 「リスク変換」概念によるドイツ医薬品規制政策分析
- 四 組織システムによる不確かさの吸収
- 五 システム合理性
- ルーマン『リスクの社会学』第8章
- ジャサノフ(1989)in Expert Evidence:Int Science
- Krücken (1997) [サリドマイド禍の国際比較]
五:
- 一 ルーマンのリスク論の意味
- 二 開放性と閉鎖性
1980年代半ばに「技術の失敗」を主題にスリーマイル島の原発事故に関する分析を行った組織社会学者のチャールズ・ペローは、1990年代になると、システムが現にいかに機能作用しえているのかは、例外事例によってはほとんど説明しえないとして、失敗や不確かさにのみ特権性を与えるアプローチを放棄したのであった。
序論 一「リスク研究の現在」
ベック紹介。
- 通常、リスクとは、みずからの利益になることと引き換えにかかわりあうことになる将来的損害の可能性のことを指す。そうした損害の可能性を見越した上で、それでもなおあえて積極的に挑戦し、何かに賭けるという意味あいがそこには含まれている。
- だが、今日的なリスクの場合には、人々は、受動的にそれに巻き込まれ、損害の可能性に「さらされる」(Beck 1986:53-54=1998:58-60)。いわば「宿命としてのリスク」というパラドクシカルな特徴を帯びることになる。[3]
オートウィン・レン(1992)によるリスク論の分類。
レンの分類によれば、リスク研究は、
- 保険数理アプローチ
- 毒物学や疫学
- 確率論的なリスク分析
- リスクの経済学
- リスクの社会理論
- リスクの文化理論
に区分できる(Renn 1992:57)。(6) の代表例の一つとしてあげられているのがルーマンであり(1990, 1991)、(7) の代表例が、先のダグラスとウィルダフスキーの研究(Douglas & Aaron Wildavsky 1982)である。レンは、こうした7つの研究分野のそれぞれについて、
- その分析の際の基本単位、
- その研究領域で支配的な方法
- リスク概念の視野(scope)
- 基本的な問題領域
- 主たる応用分野
- その道具的機能/社会的機能
に即して説明している。また (1) から (3) をまとめて「技術的なリスク分析」とも名づけている。
[…]
だがこのレンの分類では、ルーマンのリスクの社会学の位置づけが困難になる。[7]
第一章 一「リスク概念」
[…] たとえばナイトの場合、リスクは 不確実性(uncertainty)とは区別されるべきもの として概念構成されている。彼のこの区別の背後にあるのは、利子と利潤の区別である。ナイトによれば、利潤は、予期し得ない動的変化の結果による不確実性のゆえに生ずるのであり、このような不確実性は企業者によって引き受けられるものであるから、利潤は、(資本家にではなく)企業者に帰属する。[…] ナイトはこのような意味での不確実性とリスクとを明確に区別し、リスクを、測定しうる不確実性、つまり理論的にあるいは統計的に確立として知られているものとして定義し、測定できる以上、リスクは事実上、確実性へと変換できるので、固定的な諸原費へと変換されうるとした(Knight 1921=1959)。[25]
- 一般に、経済学や心理学における意思決定論においては、リスクは、損害が生ずる確率と定義される。
- またこれとは異なり、損害を生じる発生源の事象そのものがリスクと言われたり、
- あるいは、損失の大きさと損失の発生確率の積 として定義されることもある。
- [NRC の報告書では]ハザードが「ある行動や現象が ある人間や物に害を与える、あるいは その他の望ましくない結果を与える可能性」とされているのに大して、リスクは、ハザードの危害が実際に生じるかもしれない可能性の確率を段階ごとに加味し、数量化したものとして定義されている。[…]
総じて言えばこのような脈絡では「リスク」は、(1) 損害を生ずる確率、(2) 個人の生命や健康に対して危害を生ずる発生源の事象(この場合には通常はハザード、あるいは保険学ではペリルというタームが使用されることがある)、(3) 損失の大きさと損害が生じる確率との積、のいずれかあるいはこれらの意味内容の組み合わせを表す概念として使用すると、各分野の定義を集約できるといえそうである。[26]
第1章 四 決定者と被影響者
「時間次元と社会次元の緊張関係をもたらすもの」という観点からの「規範|希少性|リスク」の比較。
- [規範(〜法・道徳)] […] 規範は、別様の行動可能性がみられる場合に、その可能性を制限するときにこそ、規範としての意味を持つ。言い換えると、規範は可能性の制限という点にその確信を有している。「いかなる規範でも、それを動員すれば必ず他者の[未来の]行動を制限することになる」(SR:66)。
- [希少性(〜経済)] […] ある対象を一定量占取したことによって、他社が未来においてその対象に接近し利用する可能性が制限されていまう場合に、その対象が希少であるという社会的な意味づけが発生するのである。[…]
- [リスク] […] 「リスク」の場合には、こうした規範や希少性とは異なった時間結合が問題になる[ので、法・道徳や経済的による「解決」が難しい]。 […] ルーマンは、リスクをめぐるコンフリクトが、
- 簒奪や不法な権力行使に対する抵抗権を機軸とした西欧近代初期の規範的コンフリクトや
- 19世紀西欧における不平等分配によって惹起される社会主義運動や労働運動をその典型とする経済的コンフリクトとは異なっている点に注意を促す。
- 今日的抗議運動は、リスクに満ちた他者の行動の犠牲となりうるような状況を拒否すること をその際立った特徴としている。[…] こうした運動は、何らかの決定の影響を被る者自身として、またそうしたものたちを代弁する者として、惹起されるものなのである。
[50-52]