『権力』講義の準備。
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引用
I 「権威の概念」
[245-246] …このような潮流の背後にあるものを先に要約するならば、この問題は、政治的認識における「形式主義」の復活、あるいは「新形式主義の形成」とでも呼びうる一群の思考態度の進展との連関において、考えることができる。それは、…、政治的世界の構造を社会的あるいは心理的過程の意味における「事実」過程に還元しきれないものと考え、表現され象徴された──その意味で「形式的」過程の必然性を、そこに認めようとする思考態度なのである。これは、すでにマーチにおける勢力の「予期反応」の処理の問題にも現れていたところのものであるが、政治過程全体を人間の象徴過程の中において見、政治の展開をいわば人間の明示的「表現」へ向かう運動の総体として考えようとする思考態度であるともいうことができるだろう。
[246] 政治における「行動主義的アプローチ」が、その出発点において抱いていたのは、まさに当時の「制度主義」の対抗イメージとしての、このような「事実」過程としての政治のイメージであった。
- 政治の世界のダイナミックな「過程」的把握は、しばしば「エリート」あるいは「支配階級」もしくは「圧力集団」によって、「正しい」政策がゆがめられる過程として追及され、
- 政治における「経験的」探求とは、「象徴」「制度」「通信」をすべてこのような意味における「支配体制」との連関において、すなわち「権威の循環」の一環として位置づけて解明することにあるとされ、
- 政治における「人間性」の発見は、このような「事実」的政治の世界を裏打ちする「非合理的」人間像の発見に他ならない
というのが、逐一ここで例を挙げるのを差し控えはするが、ここにおけるアプローチの基調だったといって過言ではないだろう。政治学における「新形式主義」への志向とは、この基調におおわれた行動主義的アプローチの諸概念の全面的廃棄を意味するものでは決してない。…
[247] 行動主義的アプローチの中で「権力」あるいは「勢力」の概念が、「政策決定」の概念に重心を移してゆく過程は、その第一歩であるにすぎない。このようにしてつくられた「政策決定」のモデルの解明、および同様にして「象徴」「通信」「政治的人間」などの概念が再編成されてゆく過程についてが、それゆえ次章(II)以下での課題となるであろう。ラスウェルと「勢力測定理論」における「権力」および「勢力」の概念の分析を通じて私がここで示そうと努めたところのものは、これら諸概念の検討の前提として、既存の「権力」あるいは「勢力」の概念のうちに、まさにこのような移行を準備するものが内包され、かつ自覚化されてゆくにいたる論理的な過程なのである。
II 決定作成理論の共通点 (2) 時系列
263 「決定条件/前提条件」の探究の分化
- 決定者の内的条件: 欲求、動機、選好、効用関数、イメージ
- 外的条件: 環境、役割、制度、勢力・権威、集団組織、以前の決定
- 内的条件と外的条件の連絡: 通信、情報、認知、状況の定義
文献
I
- H・D・ラスウェル(1948→1954)『権力と人間 (現代社会科学叢書)』 永井陽之助訳, 東京創元社
Power and Personality. - ラスウェル&カプラン(1950→2013)『権力と社会―政治研究の枠組』、堀江湛・加藤秀治郎・永山博之訳、芦書房
Power and Society: A Framework for Political Inquiry, with Abraham Kaplan, (Yale University Press, 1950). - Herbert A. Simon, On the Definition of Causal Relation, Journal of Philosophy, July, 1952, 49(16), 517-528
http://www.jstor.org/stable/2021114