第3章「経済システムの内的環境としての市場」

社会の経済

I 市場の規定
  • 本書では「市場はシステムである」という規定も、「市場は経済システムの下位システムである」という規定も採用しません。
II 市場は内部環境である
  • [87] 本書では市場を「内部環境」だと規定します。
III 生存維持経済
  • [89] 本書では、〈市場/計画〉、〈市場/国家〉といった区別は使いません。
  • [90] 重要なのは〈市場経済/生存維持経済〉という区別です。
    • これは18世紀においても重要な区別でしたが、そのときと現在ではずいぶん事情が変わっています。
      • 重農主義者エリザベス・フォックス-ジェノヴェーズ先生:「市場なしには経済はあり得ず、あるのはただ生存のみ」
IV 希少性(のパラドクス)
  • 市場を(システムではなく)環境だと捉えた場合に生じる論理的諸問題について1:希少性のパラドクス
  • [91] 希少性のパラドクス:希少性の引き下げに役立つ希少財の占取が ことごとく希少性を増大させる
  • 希少性のパラドクスを展開するやり方には幾つかある
    • 〈量の決定/配分の決定〉の区別
    • 「見えざる手」なる隠喩
    • [92]「経済成長」:「配分の仕方を通じて量の成長を生み出すと同時に、その際に損失を被る者には補償ができるよう、量不変の想定が放棄された。その結果、政治家も世論も 経済成長は不可欠であり、社会安定の一つの前提条件なのだとの暗示を与えられる。」
  • パラドクス解消のいろんな策と並ぶ一つが、本書における「市場」規定です。
    • それは、「経済活動の再生産」という意味ではシステムであり、「参加システムに観察を可能にする」という点では環境です。
  • [93] まとめ
  • システムとして見た場合、経済は量の決定と配分の決定の差異を包み隠してしまう。それゆえ経済はカラブレシとホビットが「悲劇的選択」と呼んだもの──すなわち分配が現行の価値秩序によって正当化できないような結果を伴うという事態──を避けることができない。
  • けれども部分システムの環境としてなら、経済はこの事態に対して、量の決定と配分の決定の分離を可能にする。これは貨幣総額の不変(つまり予算)と信用を通じたその変動という設定を経由することによってなされる。この設定によって、どの家計もまたどの企業も自分たちの限られた資力をどのように振り向けるかを決定できるのである。
IV 市場の特徴としての競争
  • [94]
    • コンフリクトはシステムである。
    • 競争はコンフリクトではない。
    • 競争はシステムではない。
      • 競争は、希少な資源を前にして自己の目標達成に及ぼす他者の影響を、他者と接触することなく評価できる可能性を与える。人々は競争相手のことを考慮するが、競争相手とコミュニケーションする動機は持たない。
      • このようにして、競争は、コンフリクトが生じないですむようにする。
    • 競争によって構造を与えられた社会的次元は、あからさまに目標および物への指向を押し出す。ジンメルはこれを「偏りなき物への方向」と言い表している。
    • 「競争はシステムではない」ことは、「相互行為なしに社会的指向を実現できる」「時間を節約できる」という側面と、「相互行為による制御ができない」という側面とをもつ。
  • 経済領域で広範囲に相互行為の省略が起きたことは、〈全体社会/相互行為〉の区別にも影響を及ぼした。
  • ①競争相手、②交換相手、③共同者・家計成員 は、市場環境においては高度に区別されるが、そのような分化が生じうるのは市場環境においてのみである。
    • これは経済主体の「禁欲」とか「合理的構想力」といったものに負うものではなく、経済システムの分化の前提にして帰結である。
      • 「前提にして帰結である」とは、経済が進化によって成立することを──したがって、システムの機能を説明しようとするときに起源や外的原因を持ち出しても仕方がないことを──意味している。
VI 競争と市場
  • 注23 Harrison C. White, Where Do Markets Come From? AJS87 (1981).
  • 100 ハリソン・ホワイト先生「市場は、互いを観察している生産者たちの実態的なクリークであり、買い手側からの圧力は、生産者が自分たち自身を見る鏡を作り出す。」
VII 再び、価格について
  • [102] この章における明白なループの二つ目: 価格が分化を可能にする/分化が価格を可能にする
  • [104] 価格の機能
    • 「価格」の機能的等価物

VIII 部分市場、特に特殊な部分市場としての貨幣市場
  • [108] 貨幣市場における〈中央銀行/銀行〉という階層構造の発達
IX
X 市場のモデル
XI